示談書へのサイン、脅迫、一流の弁護士

実名で公表することに同意し話をしてくれる被害者がいない、証拠となる文書も手元にない。それが、当時の何カ月もの取材の結果だった。

「私たちがいかに多くの困難に直面しているかがよくわかった瞬間でした」

コルベット編集者の厳しい言葉に、トゥーイーさんたちは、「これまでの努力が無駄に終わるかもしれないと感じた」と明かしてくれた。

被害者の女性たちは、口外しないことを条件に示談書にサインしている。さらに、ワインスタインはニューヨークタイムズの記者たちを訴えると脅迫してきたという。また、私立探偵を雇い、偽の身分を使って、彼女たちや情報源の人たちをだまそうとしていたことが後に明らかになる。彼の側には一流の弁護士たちがついていた。まさに命懸けの巨大権力との闘いだった。

ワインスタインはニューヨークタイムズの社主や編集長にまで、記事を掲載しないよう圧力をかけようとした。しかし、彼らはワインスタインとの話には応じず、「言いたいことがあるなら記者と話をしてくれ」と言い続けたという。

その後、女性被害者たちが口を開き始め、証拠文書も手に入れることができた。

「少数の勇敢な情報源とニューヨークタイムズ社は、事実を把握し、最終的には真実を公表することができました。すべての困難に、真実が打ち勝ったんです」

社会的なムーブメントに

2人の記事が掲載されてからの社会の反応はすさまじかった。

「記事が公開されてから数時間~数日後には、私たちのメールや携帯電話に、他の被害者たち、つまり虐待やハラスメントを受けたことを名乗り出ようとする女性たちが殺到しました。ハリウッドだけでなく、あらゆる職業、あらゆる立場の女性たちが連絡してきたんです。まさかそんなことが起こるとは、ジョディも私も予想もしていませんでした」とトゥーイー記者は言う。

この本の映画化を、トゥーイーさんは歓迎している。映画製作者は、映画の中のいくつかのシーンについて、本に書かれている表現をそのまま使っているという。

「彼らは細部にまで気を配り、撮影の準備や脚本を作る際にも私たちに相談してきました。これはドキュメンタリーではありませんが、彼らがこの物語をできるだけ正確に、誠実に伝えたいと考えてくれているのは明らかでした」

映画で2人を演じる女優、キャリー・マリガンとゾーイ・カザンも、トゥーイー記者とカンター記者と多くの時間を過ごし、記事を研究し、取材の過程で彼女たちがどのように感じたか理解しようと努力していたそうだ。

セクハラや性暴力を題材にした映画など見たくないと思う人がいるかもしれないが、トゥーイーさんは、「勇気を出して真実を語れば大きな影響を与えることができることや、真実の重要さを示す、とても元気の出る映画だ」という。

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