3人の兄みんなに可愛がられて育った末娘
弟さまの話では、喪主は控え室にいるとのことで一緒にそちらに向かいました。もう話したいことは話しきったので、打ち合わせには同席しなくても大丈夫だという弟さまは、奥にいる喪主を呼びに行ってくださいました。
間もなく打ち合わせが始まりました。
故人の名は、神元福蔵さま、77歳。喪主は、奥さまの花恵さま、78歳。存命のお子さまは四人。長男の健太郎さま、58歳。次男の健次郎さま、55歳。第三子として生まれた長女は、生まれて五日で亡くなったとうかがい、胸が痛みます。三男の健三郎さま、49歳。次女の美花さまは39歳です。
皆さん明るくて温厚そうで、そばにいるだけで温かい雰囲気が伝わってきます。聞くと、兄弟全員が、末っ子で唯一の女の子の美花さまに甘いとのこと。それは致し方ないでしょうと、ご遺族と一緒になって笑みがこぼれました。
必要な打ち合わせをすべて終えてからは雑談になりました。ごきょうだいの話に、ときおり「それはどういうことですか?」などと口をはさみながら聞いていると、神元家の来し方が感じられます。ごきょうだいがごく普通に話すお父さまのエピソードも、はたから聞けばお父さまの人となりを如実に示すものだったり、楽しいものだったりするのです。
それらの話を聞いた私が、「今のお話をナレーションで使わせていただいてもよろしいでしょうか?」と尋ねると、「たいした内容ではないけれどお願いします」と了解を得ることができました。
もう一つの「秘密の打ち合わせ」
打ち合わせを終えた私はあいさつをし、末娘の美花さまと目で合図を送り合ってその場をあとにしました。美花さまと大切なことを話し合う必要があったのです。
美花さまはトイレに行くふりをして控え室から出てこられ、私と別室へ移動します。そこには、先ほどロビーにおられた大勢の皆さまがお待ちでした。実は、斎場に着いたときに、ほんの一部ですが話が漏れ聞こえていました。
美花さまを交えて細かい打ち合わせを始めます。美花さまと、ここにいる皆さま以外に、その内容を知る人はいません。美花さま以外のご遺族も同様です。
私は、ナレーション担当としてタイミングの部分だけを打ち合わせました。明日になったら全容を話してくださるそうですが、私もまだ全体を知りません。明日を楽しみにしながらあれこれしているうちに、通夜法要の時間になりました。