「お父さん、大好きなお父さん。美花だよ。お父さんに習い続けてきた、ひょっとこ踊りをここで見せるよ。しっかり見ていてよ」。2万人の葬儀に立ち会ったフリーの葬祭コーディネーターが見た、愛があふれる葬儀の光景とは――。
※本稿は、安部由美子『もしも今日、あなたの大切な人が亡くなったとしたら』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
早めに現場入りしたのに不思議と多い参列者
斎場へ向かう道すがらにあった農産物の販売所には、「もぎたていちご」や、「手作りおはぎ」ののぼりがはためいています。風がまだ冷たい早春の頃のことでした。
いつもならば駐車場には余裕がありますが、この日は通夜法要の時刻が迫るにつれて第4駐車場まで車で埋まってきています。
あまりに早く着いてしまったのか、ロビーには大勢の参列者がひしめいていました。何かわけがあっての混雑かと考えていた私は、自分が司会進行を担当する葬儀に参列される方たちだと、あとになって知ることになります。
いつものように祭壇の遺影写真にあいさつをしていると、葬儀担当者が私に耳打ちしてきました。ロビーにあふれる参列者への対応も私に任せたいとのこと。決まったら、その指示を自分たちスタッフにしてほしいというのです。「この混雑ぶりは、やはり何かあるのですね?」と目顔で尋ねる私に、担当者はニヤッとして行ってしまいました。
ご高齢の男性が祭壇を見つめていらしたので声をかけると、その方は故人の弟さまであることがわかりました。幼いときからずっとお兄さまを頼りに生きてきたから、今、とてもつらいのだ、とうつむいて涙をぬぐっています。そういうときは、話したいだけ話してもらうことで心の重荷が軽くなることが多いものです。悲しみはすぐに消えはしませんし、楽にはなりませんが、お通夜を過ごし、お葬式を執り行う中で、心に抱えた悲しみや苦しみは薄紙をはぐように軽くなっていくようです。これこそがお通夜とお葬式の持つ力だと、ご遺族の方々に寄り添う中で感じています。