葬儀担当者にもサプライズへの協力を仰ぐ
そのときようやく美花さまから私に、話されていなかった詳細が伝えられました。私は司会進行役ですから、全容を知らないとうまく進行できません。しっかり聞いて内容を把握していきます。
理解できたところで、あとは流れを考えます。このサプライズをどこに入れるか、そしてどこでどう行うかが課題として出てきました。私からある提案をし、一同の賛同を得てから葬儀の担当者に報告して協力を仰ぎます。斎場の従業員が一丸となって手伝ってくれてこそ成功する類いのものなので、正確にわかりやすく説明するように心がけました。
お葬式が始まりました。
私からは、福蔵さまの生きざまと弟さまから聞いた幼少期の思い出に加えて、福蔵さまの信用の厚さや、生前「『年上の女房は金のわらじを履いてでも探せ』と言うけれど、それは本当だよ」と、奥さまの自慢話をされていたこと、そして、何よりひょっとこ踊りが好きでたまらなかったことを伝えました。また、好きなことにはとことん熱中するタイプだったため、ひょっとこ踊りの師範にまで上り詰め、お弟子さんをたくさん育成していたこともつけ加えます。
もちろんご参列の皆さまもご存じのことですが、「うんうん」とハンカチで目を押さえながらうなずいています。
斎場の明かりがすべて落ちたあとに…
こうしてナレーションからつながるように、導師入場の案内を入れました。40分ほどで導師のお勤めが終わり、退場されました。
いよいよサプライズの時間です。私はあえてアナウンスを避け、BGMも流しません。祭壇前には大きめの喪服を着た女性が遺影を見つめています。
「お父さん、大好きなお父さん。美花だよ。お父さんに習い続けてきた、ひょっとこ踊りをここで見せるよ。しっかり見ていてよ」
その言葉に合わせ、私は斎場の明かりをすべて落としました。祭壇の明かりも消しているので場内は真っ暗です。しばらくして、斎場内の祭壇だけに明かりがついたかと思うと、そこには、タコのように口をとがらせて、鼻の穴から鼻毛を伸ばしたひょっとこのお面をかぶり、衣装をまとった美花さまが、両手を上にあげ、腰をぐっと落としたポーズで立っていたのです。そう、大きめの喪服の下に仕込んでいたのはひょっとこの衣装でした。そして突然、楽しくリズム感のある曲が、ピーヒャラ ピーヒャラと、大きな音で流れはじめました。