日本人は実利主義に徹したほうがうまくいく

ヒロイズムに溺れた昭和前期の失敗を教訓とするなら、今後の日本人もやはり実利主義に徹したほうが、うまくいくだろうと思う。

保阪正康『昭和史の核心』(PHP新書)

戦前と戦後というまったく異なる空間を受容し得た日本人の、生き方上手というか器用さというか、頭の良さ、ずる賢さ、さまざまな捉え方ができると思うが、このようなところをプラス評価する意識を持ちたいと思う。

アメリカのプラグマティズムとそっくりそのままではない、日本的な実利主義の精神で生きていけばいい。

形而上学など欧米の考え方の受け皿となった明治の思想家たちは、福沢諭吉をはじめとして皆、実利主義だと思う。彼らの思想が現代にも影響を遺しているのは、それだけの有効性を持ち続けているからである。

私は福沢の『帝室論』を読んだときに、まさに戦後の皇室にあてはまることを、実利的な視点から言っているのに驚かされた。慶應義塾の学長を務めた小泉信三に皇室が信を置いていた理由がわかった。

「抽象的理想」が日本を崩壊させる

日本人は、おそらく政治的にも経済的にも抽象的な議論が苦手であり、従ってゴールのある目標を達成するのは得意だが、道なき道を先導するのは苦手なのである。それなのに、太平洋戦争においてはなぜか、概念の世界に入りこんでしまった。「天皇のために死ぬのは正しい」ということが示すように、具体的理由や主体的動機のない空間に入りこんでしまったのである。

そういう空間での立ち回り方が、形而上学的思考習慣を持たない日本人にはわからなかったのに違いない。それで昭和前期までの、近代史としての日本は崩壊した。

今後、我々が持つべき一つの判断基準は、国が抽象的な、神がかり的な方向に流れていないかであろう。その方向に政治も経済も文化も動き出したら、おそらくこの国の崩壊は近いのだ。リアリズムを強調し、実利的だと思える状況で動いているうちは安心である。そして、より良き実利主義を見出していくことが必要なのだ。

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