逆張り戦略を行った必然

さて、商品のデザインや味付けの方向はともかく、なぜここまでマツダは振り切った、時代の流れに逆行するような戦略が採れたのでしょうか。それだけマツダの経営体質には余裕があるのでしょうか? いいえ。そんなことはありません。

そもそもマツダは2015年までフォードグループ傘下にいたメーカーであり、偶然リーマンショックにより解放された奇跡の独立系メーカーです。

今ではトヨタと技術提携し、株を持ち合っている関係とはいえ今後来るCASE革命に対し、遊んでいる余裕などないはずです。

というか逆に余裕がないからこそ、このような逆張り戦略に出たのだと思われます。

ご存じの通り、CASEの流れは止められません。世界的にCO2削減が叫ばれ、自動車の電動化、自動化を進めるにはお金と技術が必要です。それを見越してトヨタとの関係も結んだはずです。

しかしCASEの時代が来るということは、ある意味クルマのコモディティ化が進み、どれも似通ったテイストのクルマになる可能性があり、そうなると最終的には規模が大きいメーカーが生き残ります。

どれも似たようなクルマならば、安心感がある、大きな自動車ブランドの方がいい。具体的にはトヨタやフォルクスワーゲン、ルノー日産三菱アライアンス、もしくはステランティスグループのような存在でしょう。

また、安くて良いクルマ=コモディティ商品としての製品勝負となると、労働力の安いアジアが有利に決まっています。

つまり、日本といういわゆる先進国に属する100万〜200万台規模メーカーはどこかで必ず個性化勝負をしなければならない。具体的にはどこかの傘下に入り、別ブランドとして生き永らえるか、あるいは本当に独立したプレミアムブランドになるのか。いずれにせよ他にない味付けやデザインで勝負するしか生きるすべはない。

具体的には年間販売200万~300万台レベルで勝負できるメルセデス・ベンツやBMW、アウディのようなブランドビジネスにいかに近づけるかです。

写真=筆者提供
この時代に直6ディーゼル車で勝負して販売好調なのは、まさに「ブラボー!」

“マツダ風味”という強い個性

事実、今マツダはそちらの方向に向かっています。デザインはサイズの大小にかかわらずどのモデルを見ても似通っている一方、他にない美しさや質感、色合いで勝負しており、走り味やサウンドも個性的。

もちろん電動化する中で個性的な走り味を追究する方法もあるとは思いますが、素人的に考えてもかなり難しい。電動モーターの制御や電動サウンドで違いを生み出すこともできるとは思いますが調整幅は狭いでしょう。

しかし後10年チョイは残されていると目されるガソリンエンジンでありディーゼルエンジン。この消えゆく技術が消えぬ間に“マツダ風味”という強い個性を作り上げ、世間に認知させることはできるかもしれない。

いや、そうするしかない。そこで今回のCX-60であり、今後世界展開するCXー70、80、90の新ラージ商品群は生まれたと思うのです。