失敗の責任を軍部に押しつけるための道具

プーチン氏は、台頭する強硬派をどのように捉えているのだろうか。司令部批判の急先鋒が野放しとなっている現状をもとに、プーチン氏自身がこうした主張に耳を傾けているのではないかとの分析がある。

原則としてプーチン政権は戦争批判を違法化しており、反論者を厳罰に処す方針を打ち出している。ワシントン・ポスト紙は、戦争批判には最長15年の懲役が課されると解説している。

ところが、傭兵集団頭首のプリゴジン氏とチェチェンを率いるカディロフ氏に対しては、軍部批判に関してなぜかおとがめなしの状況だ。

BBCは11月、「2人ともロシアの軍や安全保障機関の正式なトップではないが、どういうわけか軍司令官をそろって批判し、互いの意見を称賛しあうことが許されているのだ」と指摘している。

記事はまた、2人が「通常であれば前代未聞の背信的な発言と捉えられる」ような行動をしてなお言論を封じられていないことから、「ウラジーミル・プーチンが彼らの意見を考慮に入れていることを示唆している」との見方を示した。

あるいは、プーチン氏が自ら選択したウクライナ侵攻の停滞に焦りを感じ、失敗の責任を軍部トップに押しつける後ろ盾を求めている可能性も考えられるだろう。いずれにせよ強硬派の声が大きくなってきたことで、戦争継続はますます覆りにくい状況となっている。

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和平交渉を望むロシア世論対策

ロシア国民からは、戦争の停止や和平交渉を望む声が徐々に聞かれるようになってきている。だが、タカ派の台頭により、ロシアの世論が戦争肯定へと揺り戻される危険がある。

独立系メディアのモスクワ・タイムズ紙は、現状では戦争への支持が低下していると指摘する。

同紙は、ロシア当局が11月17日に実施した、未発表の調査データを入手している。それによると、侵攻開始は正しかったと考える国民は60%存在し、多数派を占めている。だが、春時点の数字と比べると10ポイントも低下しているのだという。

特に18歳から45歳までの若い世代では約40%と低く、半数を割っている。同紙は、ネット世代が国営放送の発表にとらわれず、より広い情報を得ているためだと分析している。また、9月の動員令により、動員対象の年齢層に動揺が走っていることが考えられるだろう。

また、開戦の正当性ではなく今後戦争を続けるべきかを問うと、和平交渉を望むロシア国民が多数を占めるようだ。メデューサは、クレムリンの依頼を受け独立系調査機関が実施した非公開調査を入手している。