プーチン政権で止まらない穏健派の流出

ロシア政界から、最後のリベラル派重鎮が姿を消した。

キルギスの首都ビシケクで記者会見に臨むロシアのプーチン大統領=2022年12月9日
写真=AFP/時事通信フォト
キルギスの首都ビシケクで記者会見に臨むロシアのプーチン大統領=2022年12月9日

ロシア上院は11月30日、元副首相でもあるアレクセイ・クドリン会計検査院長官の辞任を承認。経済改革と近代化を訴えるリベラル派として最後まで残った主要人物であったが、今後はロシア版Googleとも呼ばれる検索大手・ヤンデックスの幹部に転身するとみられる。

ロイターは、「クドリン氏は『退職は自らの意志によるものである』と強調した」と報じている。経済発展の観点からロシアの変革を試みた同氏が、戦時色を強めるプーチン大統領の方針に限界を感じ、民間企業に身を転じた模様だ。侵攻に反発したとの見方も出ている。

2月のウクライナ侵攻を契機に、プーチン政権からはリベラル派の流出が続いた。侵攻前日の2月23日には、大統領特別代表のチュバイス氏が辞任している。続く3月にはアナトリー・チュバイス元副首相がロシア国外へ脱出し、5月になると大統領非常勤顧問のワレンチン・ユマシェフがプーチン氏の元を去った。

多くは侵攻反対を示すための自由意志による辞職だとみられるが、プーチン氏はこのほか、積極的な保守強硬派の登用を進めている。ロシアのある組織では、「粛正」と報じられる事件が起きていた。

侵攻反対派の委員を「粛正」、プーチンの焦り

米インサイダー誌は11月、「プーチンがロシアの人権委員会を粛清、批判派を戦争推進の支持者らにすげ替え」たと報じた。人権派の委員ら10人が解任されている。

従来であれば委員会には、一定程度のプーチン批判派が登用され、政権のストップ役として機能していた。英オープン大学のプレシャス・チャテルジー=ドゥーディ講師(政治・国際関係)は同誌に対し、「戦時下ですべてが変わってしまった」と危険性を指摘している。

ロシアに失望し続々と政界を去ったリベラル派有力者らを尻目に、主要機関の人事をタカ派で固めるプーチン氏。それを取り巻く保守強硬派らはますます勢いづき、ウクライナに対する核使用も辞さないとも公言し始めた。

こうした強硬派らはソーシャルメディアを巧みに利用して戦争肯定論を拡散しており、ロシア世論が一層戦争支持に傾くおそれが指摘されている。

反面、急速なタカ派の登用は、プーチン氏が焦りを感じている表れとも言えそうだ。ロシアでは9月の動員令をきっかけに、国民の一部が戦争に疑問を持ち始めている。