現在、銀座ルノアールのシャトレーゼは中野ブロードウェイの1店だけ。しかもここは、正九郎氏が花見煎餅店を始めた「創業の地」。ルノアールの喫茶店でやってきたが、業績が悪化していた。「ルノアールの看板をおろすことはすごいプレッシャーで、創業者に心の中で謝りました」

撮影=西田香織
バブル崩壊や東日本大震災を経験し、今回のコロナ禍も乗り越えられると思っていたが、「半年で覆されました」と猪狩氏

中野にある本社で猪狩氏を取材した帰り道、訪ねたところ、レジ前は長い行列だった。「幸い、業績も上振れしていて一安心しています」と猪狩氏。

とはいえ、表通りに面した1階の店舗がほとんどないルノアールではシャトレーゼに切り替えられる店はあまりない。シャトレーゼの出店計画に乗る形で少しずつ増やしていくつもりだが、やはり基本はルノアール。そのために手をつけようと考えているのが、ルノアール以外の店の集約だ。

他ブランドはあくまでルノアールを支える存在

現在、喫茶室ルノアール77店のほかに「ミヤマ珈琲」「カフェ・ミヤマ」「NEW YORKER’S Cafe」など6業態21店がある。

振り返ると、カフェへの業態転換はドトールなどの安売りコーヒーとの対抗上も時代の流れだった。が、世界を見渡して経営戦略を練るスターバックスが上陸してみれば、東京でコツコツ喫茶店を経営する会社が太刀打ちできる規模や速度ではなかった。

それでも3代目社長はブランドを増やす方針だったが、どれもうまくいっていない。整理するにあたっては、地方でも通用するブランドとしてルノアールを補うステップにつなげたい、と猪狩氏。

仮に集約されたブランドがうまくいけば、ルノアールとそのブランド、どちらに力点を置くのか、と尋ねた。即、「基本はルノアールです。ルノアールが50店になって、集約ブランドが100店になっても、私の中ではルノアール。あくまでもルノアールを支えるのが目的です」と返ってきた。そして、2代目時代の話になった。

撮影=西田香織
猪狩氏の胸元には「Renoir(ルノアール)」のバッジ

値上げしてもルノアールへの信頼は消えなかった

バブルがはじけ、3期連続赤字になり、監査法人からもこのままでは倒産の可能性がある「ゴーイングコンサーン」注記をつけなければならないという指摘を受けたことがあった。ドトールの台頭もあり、社長は「もうルノアールはむずかしい」と自信を失っていた。

そんなとき転機となったのは、猪狩氏が出勤する電車で読んだ「飲食チェーンの値上げ」という新聞記事だった。