減った仕事の時間、増えた睡眠・家事・ネットの時間
こうした新型コロナウイルスの感染拡大にともなう日本人の生活変化については、経済面、家計面、雇用面、レジャー面など社会全般にわたっているが、ここでは、そうした影響を総括的に示すものとして、国民の生活時間の変化を取り上げることにしよう。
実は、5年毎に行われている総務省統計局の社会生活基本調査が2021年に行われ、その結果が最近、公表されたため、コロナ前である5年前の2016年と比較することにより新型コロナの影響を推し量ることが可能となったのである。
図表3では、日本人の生活時間の時系列的な変化を男女有業者ベースで追っている(※)。
※学生・無業者を含んだ国民全体ベースで変化を追うと、有業率(労働力率)の変化や年齢構成の変化による生活時間の変化の要素が含まれてしまう。例えば、高齢化が進めば、働いていない高齢者の割合が増え、仕事時間は国民平均で減少する。また、女性について有業率(労働力率)が上昇すれば、それだけで仕事時間が国民平均で増加する。有業者ベースで変化を追えば、こうした要素を除去して、変化の方向を評価することができるのである。
新型コロナの影響は、これまでの時系列的な傾向に大きく反する動きとしてとらえることが可能である。従って、図表3の下半分には、2016年までの傾向的な変化を回帰直線の傾きによる5年換算の変化幅を棒グラフで示し、2016~21年の変化幅を矢印で示して対比させている。
日本人の生活時間に及ぼした新型コロナ感染症の影響について図表3から読み取ることができる特徴は以下のようにまとめられよう。
第1に、男性16分、女性18分と「睡眠」が大きく増加したのが目立っている。2016年までの大きな傾向としては、寝る間も惜しんで遊び歩くという方向だった。睡眠と仕事の時間が両方とも減り、自由時間が増えていることからそう言えるのであるが、これが完全に逆転した。
新型コロナ感染症への予防対策として外出が控えられ、またテレワークの普及にともない仕事や通勤の時間が減少したことで時間の余裕が生まれ、その結果、睡眠不足が解消したというのが実態であろう(テレワークの影響については後段を参照)。
男性の仕事時間が22分も減っているのに、女性は5分の減と小さいのは、コロナ禍で女性の飲食店やレジャー関連のパートタイム就労が減った影響で有業者の仕事時間の平均を押し下げられたからと考えられる。
第2に、スマホやネットに割く時間が含まれると考えられる「休養・くつろぎ」が「睡眠」とならんで大きく増加している。これは「交際・付き合い」が減少している点と補い合う現象であり、IT化を通じてだんだんと進んできた人と人との「リアル交際」から「バーチャル交際」へのシフトがコロナ禍でさらに加速したものと考えられる。
第3に、在宅時間の増加により「家事」(育児、介護を含む)が男女ともに前期以上に増加した。もともと必要性が高かった生活行動が可能になったという側面が考えられよう。
第4に、在宅時間の増加にもかかわらず「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」に費やす時間の大幅減が前期から続いている。若い世代を中心にインターネット、スマホによる代替が進行している影響である。
第5に、食事時間はほぼ横ばいのままでありコロナ禍の影響がなかったかのようである。在宅の食事が増え、外食が減って両者が相殺された結果であろう。
第6に、身の回りの用事の変化については、すぐ後で触れるようにおしゃれの要素が大きいと見られるが、女性は外出減、マスク着用などで増加傾向が大幅縮小となった。ところが、男性はむしろ増加幅が大きくなった。これについて、別途、年齢別に調べてみると若年層の変化でありコロナとは無関係の「美容男子」増の影響と見られる。
ポストコロナでまたもとの生活パターンに戻るのか、それとも今後もテレワークを含めコロナ時代の生活パターンが定着するのか、5年後の次期調査の結果が興味津々であるゆえんである。