タスク自体は同じでも多くのリソースが必要になる

ウォーカー博士がいう、赤ちゃんは新しいことを学習しているからこそ、たくさんの睡眠が必要だというのは、具体的にはどうことなのでしょうか。

まず、疲れていると、わたしたちはなかなか新しい情報を敏感にキャッチできません。それどころか、いろいろなことがどうでもよくなりがちです。

おそらくだれもが体験したことがあるでしょうが、神経画像検査による研究から、眠いときの脳は、普段より多くのリソースを使わなければならず、効率よく働けなくなることがわかっています。

これは、先ほどからお話ししている睡眠と学習についても同じことがいえます。疲れているとき、わたしたちがどうなっているか、改めて考えて見てみましょう。

疲れた状態になると、まわりに十分な注意を払えず、頭も固くなっています。込み入った問題を解決することなど困難です。これは、目の前のタスクに対する関心が薄くなってしまっているからです。

疲れているときに、なにかをなくしてしまったという経験をしたことがあるでしょう。よくいわれるように、これはものごとに対する集中力が散漫になり、注意力が低下している証拠です。

また、どうにもこうにもくたびれてしまって、体中の力を振り絞らないと、簡単な仕事すらできないという経験もあるのではないでしょうか。こういう状況にあっては、よく学んだり、人生を楽しんだりできません。

生後1年目の脳学習が人生の基盤になる

赤ちゃんだって同じことなのです。

赤ちゃんが睡眠不足になったときでも集中力がどれほどつづくのか、その時間の変化を直接調べた人はいませんが、わたしは仕事柄、睡眠不足のために集中できなくなっている赤ちゃんを数えきれないほど見てきました。

そんなとき、赤ちゃんはどのような状態になっていると思いますか。

そうです、赤ちゃんは目の前のこと、ひいてはまわりの世界への関心が薄くなり、興味を持てなくなっています。

睡眠は、学習能力を高める手助けをすると見てきましたが、赤ちゃんが起きている時間を楽しみ、まわりの環境とよく触れあう手伝いもしているのです。つまり、まわりをよく観察しようとする意欲と集中力を高めてくれているのです。

これは、生後1年目の赤ちゃんにとって、決定的に重要な意味を持ちます。

なぜなら、この時期の赤ちゃんの脳はあとの人生のどの時期よりも速いスピードで日々学習し、これからの基盤づくりをしているからです。