サン紙は「この都市は驚くべき複合体であると同時に、低賃金の移民労働者たちの犠牲のもとに建設されたのではないかと懸念されている」と述べている。命の危険を生じるほどの蒸し暑い現場で働かされながら、時給は1ポンド(約170円)にも満たないという。インド、パキスタン、ネパール、フィリピンなどからかき集められた労働者たちが「ある種の『強制労働』」の状況に置かれているとの指摘だ。

英メトロ紙も時給の低さが問題化していると指摘し、「うだるような40度の暑さのなか、『75ペンス(約125円)の賃金』」で移民労働者が働かされていると報じている。

出稼ぎに来たが、借金を抱えて帰国する人も…

カタールまで出稼ぎに来て過酷な労働に従事したうえ、借金を抱えて帰国する例もあるようだ。ガーディアン紙は、人材紹介業者に莫大ばくだいな仲介料を支払い、やっとの思いでカタールの現場で職を得たという労働者らの話を取り上げている。

彼らは2年契約だと信じて紹介料を支払ったものの、施主がW杯を前に工期を急ぐあまり、現場での仕事が前倒しで完了してしまった。見込んでいた給料の支払いは打ち切られ、職を失い、負債を抱え込むおそれに直面しているという。

警備員として働く別の労働者は同紙に、数カ月も12時間シフトで働かされており、1日でも休むと減給処分が下されると訴えた。転職を試みようにも、現在の雇用主が認めないため不可能なのだ、とこのスタッフは嘆いている。

ルサイル・アイコニック・スタジアムを訪問するジャイル・ボルソナロ氏(2021年11月17日、カタール・ドーハ)(写真=Alan Santos/PR/Palácio do Planalto/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

死因は「自然死」で片付けられた

ガーディアン紙はW杯の開催決定以降、南アジア5カ国からの移民労働者だけで、平均して毎週12人が命を落としている計算だと指摘する。宿舎さえ劣悪な環境となっており、労働中以外の死亡事例も相次ぐ。

バングラデシュから出稼ぎに来ていた29歳の男性作業員は、作業員宿舎で休息を取っていたところ、自室に洪水の出水が流入した。泥水は露出した電線へとみるまに達し、男性は感電死している。

インドから来た43歳労働者も、寮の自室で死体で発見された人物のひとりだ。渡航前は健康そのものだった彼だが、カタールでの死因は「自然死」で片付けられた。ガーディアン紙は、インドからの労働者の80%近くの死因が自然死とされている現状に疑問を呈し、酷暑下での労働が原因となっている可能性を示唆している。

さらに同紙は、ドーハのサッカー専用競技場「エデュケーション・シティ・スタジアム」で働いていた24歳のネパール人青年の例を取り上げている。足場工として働いていた彼は2019年、スタジアム付近の粗末な労働者キャンプで休んでいたところ、息苦しさに目覚めた。友人らが救助を呼んだが間に合わず、そのまま息を引き取ったという。