熱中症の重症者は500人以上

BBCは、カタールにおける外国人労働者の死亡例が、2021年だけでも50件発生していると報じている。重症者は500人以上、軽症と中等症は計3万7600人に上るという。

メトロ紙は人権団体の報告書をもとに、死亡した移民労働者の例を多く挙げている。バングラデシュからはるばる渡航した32歳男性は、気温40度のもとで配管工として4日間働いたあと、ベッドの上で息を引き取った。

同じネパール出身の34歳男性は、39度の酷暑のなか10時間建設業務に携わった。やっと睡眠に入ったあと、二度と目覚めることはなかったという。

空港警備員として働いたネパールの34歳男性は、直射日光下での長時間労働を強いられ、就業中に帰らぬ人となった。いずれも死因は「急性心不全による自然死」とされている。

常態化する移民への不当な処遇

もっとも、報じられているような1万5000人ないしは6500人のすべてがW杯会場の建設現場で死亡したわけではない。

ドイチェ・ヴェレは、どちらの数字も政府統計に基づく正確な数字ではあるが、ホスト国に選定された2010年からの10年間で死亡した外国人の数を指していると解説している。建設業以外の従事者も含まれる形だ。

だが、だからといって看過できる数字かというと、決してそうではないようだ。BBCによるとカタールの人口構成は、男性が75%、女性が25%という異様な様態となっている。この歪みは、男性が多くを占める大量の移民労働者によってもたらされた。人口のうち純粋なカタール国民が占める割合は15%にすぎず、残りの85%は移民労働者によって構成されている。

人口の多くを占めるこうした移民労働者の多くが、虐待とさえいわれる劣悪な労働環境に置かれ、続々と命を落としている。ドイチェ・ヴェレはまた、移民労働者は各種疾病の健康チェックを通過して渡航してきていることから、急激に体調に異変を来すのは不可解だと指摘している。明らかに厳しい労働環境が人命を奪っているとみられる。

公式発表は死者37人だが…

カタール大会ではスタジアム7つを新設し、既存の1つを改修した。この事業に関して公式発表では、死者は3人に留まっている。ここには数字のまやかしが潜む。

カタールのドーハにあるサッカースタジアムの建設現場
写真=iStock.com/Cylonphoto
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スタジアムの建設に直接関連した死者は公式データでは37人だが、大会組織委員会はうち34人を「非業務関連」の死因と位置づけた。

これに対しガーディアン紙は、実態と乖離かいりがあるのではないかと疑問を投げかける。明らかにスタジアムの建設現場で倒れ死亡した労働者も「非業務関連」に含まれており、専門家らも用語の妥当性に疑問を示しているという。