BBCも同様に、国連の労働専門機関による見解をもとに、「高温下での労働によって心不全や呼吸不全がもたらされることが多いにもかかわらず、こうした死因をカタールは業務関連に算入していない」と指摘する。
病理学の権威であり世界保健機関(WHO)のワーキンググループにも参加しているデイヴィッド・ベイリー博士は、アムネスティに対し、死因を心不全としているのは原因の究明ができていない証拠だと指摘している。
「最終的には誰もが呼吸不全または心不全で死ぬことになりますから、その原因を説明しない限り、こうした用語は意味をなしません」とベイリー博士は述べる。ドイチェ・ヴェレもこの見解を支持しており、公式発表の死者3人は「誤解を招く」表現だと指摘している。
一方、ガーディアン紙によるとカタール政府の報道官は、「これらのコミュニティにおける死亡率は、人口規模と人口構成を考慮するに、予期される範囲内に収まっています」と述べている。カタール政府としてはあくまで、異常事態の発生を認めない構えのようだ。
移民を人柱にしたW杯に正義はあるのか
報道されている6500人ないし1万5000人がすべてW杯プロジェクトに直接携わっていたわけではないにせよ、いずれにせよ同国における移民の厳しい労働環境を示している。
W杯のホスト国に選定されたのをきっかけに、カタールにおけるホテルや空港などの建設プロジェクトは急増し、かつ厳しい工期を迫られた。間接的にであれ、大会が労働環境の悪化に影響した面は否定できないだろう。
カタール大会をめぐってはこうした労働問題のほか、独自の文化も議論の対象となっている。世界的にLGBTQの権利向上が進むなか、同性愛は違法とされ、最大で石打ちによる死刑に処される。
飲料販売をめぐる混乱も取り沙汰された。アルコールがホテル以外では禁忌とされる同地において、W杯会場では例外的にビールが販売される予定だったが、開幕2日前に覆されている。
治安も懸念事項のひとつだ。開幕初日、アルゼンチンのTV局がファンゾーンから中継していたところ、生放送中に強盗の被害に遭う珍事が発生した。
英ミラー紙によると、リポーターは犯人にどのような処罰を望むかと現地警察から希望を聞かれ、この点でもカルチャーショックを受けたという。
世界的な競技大会の観戦においては、スポーツ自体の魅力と並び、ホスト国が誇る異文化への理解も楽しみのひとつだ。だが、会場建設やインフラ整備のために他国民の人命を軽視する文化があるとすれば、異国情緒として受け入れることは到底不可能だ。
果たしてホスト国にふさわしい品格を備えていたか、カタール大会の舞台裏に厳しい評価が向けられている。