貨物事業の収益性を維持しながら旅客需要を取り込んでいく

国内線の貨物事業は国際線に比べて収益性が恒常的に低い。

国際線以上に鉄道やトラック輸送といった他の輸送手段との競争にさらされているためだ。コロナ禍以前から国内貨物は輸送規模が国際線の10分の1以下と小さく、ANAHDもあまり重要視していなかった。とはいえ、日本の国内線旅客の市場規模は世界でも有数の大きさ。旅客便のベリーにより多くの貨物を搭載できれば、貨物事業の収益性は高まる。

高尾泰朗『ANA苦闘の1000日』(日経BP)

貨物事業の成長という視点では、国内線はもちろん、国際線でもEC(電子商取引)需要の取り込みが欠かせない。ANAカーゴは21年4月、これまで自動車関連、半導体関連や電子部品、医薬品や医療機器の3分野で設けていた専門のマーケティングチームを新たにEC分野にも設置した。必要な時間帯で便を機動的に設定するなど、本格的な対応を進めていく考えだ。

貨物事業の収益性を維持しながら旅客需要の回復を取り込んでいければ、ANAグループの収益構造はレジリエンス(復元力)が増す。国内の航空貨物の競合であるJALは旅客機だけ、また日本貨物航空は貨物専用機だけで貨物を運んでいる。その両方を組み合わせつつ、ピーチなどグループのLCCの力もうまく組み合わせられるかが競争に打ち勝つ鍵となる。

「コロナ禍で世の中は変わった。我々も変わるチャンスだ」。

ANAカーゴ社長の外山はこう意気込む。

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