先の見通せない世界で起こる「安易なリストラ」

こうして私は、作家というフリーの立場で組織の後ろ盾がなかったにもかかわらず「五十路の壁」を乗り越えることができた。これはひとえに編集者の方々のお陰である。彼らが私を守ってくれなければ、私に仕事を提供してくれなければ、私は「五十路の壁」の前で屍を晒し、朽ち果てていただろう。

私が今、文庫化にあたってこんなことを書いたのは他でもない。非常に心を痛める現実が50代の皆さんの前に突如現れてきたからである。

それはコロナという新型ウイルスによるパンデミックとロシアによるウクライナ侵攻という事態である。これらは明らかに想定外の事態である。

今までは、グローバル化が経済を発展させ、人々を幸福にすると考えられていた。しかしその行き過ぎが経済格差や環境破壊などで表に現れ、問題化しつつあったところに、一気にこのような想定外の事態が起きてしまった。

この事態を受け、今や世界経済はデフレからインフレに急変し、ロシアや中国などの東側とアメリカ、ヨーロッパ諸国の西側との対立が鮮明になった。

ポスト・グローバルな世界に突入してしまったのである。

企業は、今まで通りグローバルに活動できなくなり、先が見通せないという理由で、私から見れば安易なリストラに走り始めている。それも対象はなんと50代である。

2021年に希望退職を募ったのは上場企業80社で1万5000人を突破したという。前年の2020年が1万8635人で2年連続1万5000人超えである(東京商工リサーチ調べ)。これらの希望退職という名のリストラはすべて50代が対象なのである。

2021年8月にはホンダでは55歳以上、11月にはフジテレビでは勤続10年以上50歳以上がリストラ対象になった。その他にも多くの企業がまるで目の敵のように50代をリストラの嵐に晒している。その理由は、給料ばかり高くて働かないからだという。