「高くて不味いレストランに誰も行かないのと同じ」

「あなたねぇ、前の会社でどれだけ偉かったか知らないけど、そんなの関係ないから。職務分析して、自分にどんなスキルがあるかが勝負なんだから。若い人なら、会社は安く、長く使うことができるけど、あんた50歳を過ぎてんだよ。高い金で短い期間しか使えないんだ。そんな買い物、あんた、する?」
「……しないです」
「そうでしょう。当然だよね。高くて不味いレストランに誰も行かないのと同じ。今、あなたはそんな状態なの。冷静に自分に何ができるか考え直して、出直しなさい」

喪黒福造は、私に書類を突き返した。

私は、完全に打ちのめされた。

それで「作家しかない」と覚悟を決めた、というのは嘘だけど、本当にショックだった。

私には市場価値がない。これが現実なのだ。

人事部、広報部に在籍したなんて、ポストだけであって、そこで具体的に何をして、どんなスキルを身につけたかが問題なのだ。

会社にしがみつくのも才能

私には多少自信があった。広報部では、特にリスク管理で成果を上げたし、総会屋事件後の業務監査統括室ではヤクザとも喧嘩したから、「あなたは引く手あまたです」くらい言われると思っていた。しかし、すべては勘違い。

江上剛『50代の壁』(PHP文庫)

50歳になったら、たいていの人は同じ目にあう。嘘だと思うなら、一度、ハローワークに相談に行ってみるといい。誰もあなたを求めていないという現実に絶望するから。

私は、会社にしがみつくのも才能だと思う。

65歳定年制も70歳まで延びそうだ。年金支給年齢も年々、後ろ倒しになっていく。

私のアドバイスは、「恥ずかしくないから会社にしがみつけ」というのが一番。

それでも辞めたいというなら、いったい自分は何をやりたいのだろうか、何をやりたかったのだろうかと五十路の壁の前に坐禅してじっくりと内省することだ。

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