当時の日本円換算で、ジョンとポールが14億4000万円ずつ、ジョージとリンゴが10億8000万円ずつ持っていたことになる。当時は今より物価が安かったので、相当な資産だった。

ビートルズは、アマチュア時代に「音楽で食っていくこと」を最大の目標としていた。厳しく長い下積み時代を経て、ようやく音楽で食っていけるようになったら、今度は高額の税金に悩まされることになったのだ。

この高額所得者の高い税率は、芸能人などにとっては酷な面もあった。芸能人は、ビートルズのように下積み時代は収入が低く、売れると急に高額所得者になるケースが多い。富裕層のように、ずっと高額所得者だったわけではないのだ。

しかし税制は、下積み時代のことはまったく考慮せずに、ほかの富裕層と同様に、収入に対して、等しく税金が課せられることになっている。

また芸能人というのは、今が売れているからといって、そのまま売れ続けるとは限らない。というより、むしろ売れる期間は短いのが普通だ。だから売れているときに、なるべく貯蓄をしておきたいものである。

が、芸能人は、恒久的な富裕層と同様に高額の税金がかかるので、貯蓄しようにも貯蓄できないのだ。

「節税会社」をつくって対策を取る

ミュージシャンなどの芸能人は、税金に疎いことが多い。

だが、ビートルズは、マネージャーのブライアン・エプスタインが実業家だったこともあり、比較的早く税金対策に手をつけていた。

ビートルズの税金対策の中心は、会社設立だった。当時のイギリスでは、普通の報酬や給料には高い所得税が課せられていたが、株の配当による税金は安かった。そのため、会社をつくり、ビートルズの収入をいったんその会社にプールし、ビートルズの面々は会社から配当を受け取るという仕組みにしていたのだ。

ビートルズの会社というと、アップルが有名だが、アップルを設立する以前からビートルズは、いくつか会社をつくっていたのだ。その主なものは、ジョンとポールの作曲印税を管理していたレンマックという会社である。

出典=『お金の流れで読み解く ビートルズの栄光と挫折』

レンマックは、ジョン、ポール、ブライアンの3人でつくられた会社で、株はジョンとポールが40%ずつ、エプスタインが20%持っていた。

ジョンとポールが、著作権印税を直接もらうと高額の所得税がかかる。そのため、著作権印税は、いったんレンマックという会社に入り、レンマックからそれが配当という形で、ジョンとポールに支払われるようになっていたのだ。

タックスヘイブンも駆使するが…

またビートルズは、税金対策としてタックスヘイブンを使うこともあった。

タックスヘイブンというのは、直訳すると「租税回避地」であり、税金が極端に安い国や地域のことである。島嶼国とうしょこくなどの小国が、企業や富裕層を誘致するために、安い税制を敷いているのだ。