ピートは、地方都市リバプールの単なる若者である。いわば「田舎のあんちゃん」に過ぎない。もちろん、ブティックの経営知識などはない。
アップル・ブティックは、オシャレに見せるために店内の照明を暗くしたため、万引き天国となってしまうなど、明らかな失敗を犯し、たちまち大赤字を出した。
最悪だった「ブライアン・エプスタイン急死」
この時期、ビートルズにとって最悪に不幸だったのは、マネージャーのブライアンが死去してしまっていたことだった。
よく知られるようにブライアンは、1967年、ビートルズの絶頂期に死亡してしまう。
彼は精力的に活動する一方で、精神的に弱い面があったとされ、晩年は薬物に頼ることが多かった。ビートルズが1966年に過酷なライブ・ツアーをやめてしまい、バラバラに行動するようになってからは、とくに疎外感を覚えていたようだ。
ブライアンは、自宅で薬物の多量摂取により、死に至ってしまった。当初は自殺も疑われていたが、警察の発表では自殺ではないということになっている。このブライアンの死により、ビートルズはビジネス的に漂流してしまうことになる。
もともとアップルは、ブライアンが構想していたものだった。彼は優れた実業家だったので、ビートルズの夢想じみたアイディアも、うまくビジネスに結びつけられたはずだ。また、彼らにビジネス上の適切な助言を与え、暴走を食い止めることもできただろう。
しかし、ブライアン亡きあとのビートルズには「ビジネス面を任せられる大人」は皆無に等しかった。いや、むしろビートルズに群がってくるのは、彼らの財産を目当てに美味しい思いをしようという、山師ばかりだったのだ。
税金対策で破産の危機に直面
そういう人たちが、ビートルズの金を無責任に散財していく。アップル名義で購入された高級車が2台も行方不明になるなど、常識では考えられない事態が生じていた。
「儲けたお金を税金対策のために、ほかのところに投資する」ということで始められたアップルだったが、ビートルズの想像をはるかに超えて経費がふくらんだ。儲けたお金はすべて費消し、逆に赤字になってしまうという始末だった。
アップルは、操業して1年も経たないうちに経営難に陥り、このままではビートルズの面々は破産するという事態に陥ってしまったのだ。