売ってもらえないなら、「工場直売所」を出せばいい

齊藤は営業が得意ではなかった。作り笑いをしたり、頭を下げたりするのも苦手だった。腕時計を買わされたり、寄付を強要されたりしてまで小売店とつきあおうとも思わなかった。

そこで、考えたのが直売所を作ること。自社工場から商品をそのまま直売所に持って行き販売すればいい。彼は「工場直売店」と銘打ち、甲府駅と本社工場の中間にプレハブの実験店舗を作った。主力商品はアイスクリーム。価格は卸価格と一緒にした。100円のアイスクリームだったら、34パーセント引きの66円で一般消費者に売ったのである。

夏の暑い時期、他の店では100円前後で売られているアイスクリームがわずか66円なのだから、売れないはずがない。

勢いに乗った齊藤は甲府だけでなく、千葉の柏市に持っていた子会社の物件を使って規模を大きくした工場直売店を出した。夏はアイスクリーム、冬はシュークリームとロールケーキ。製造メーカーだったシャトレーゼが製造小売業に一歩を踏み出したのはこの時からだ。以後、商品の種類を増やし、店舗は直売店、フランチャイズ店として拡大していく。

このようにシャトレーゼのヒット商品はアイデアや開発力だけでできているのではない。ヒット商品を産みだすシステムを持っている。

撮影=プレジデントオンライン編集部

なぜ「おいしさ」と「低価格」を両立できるのか

問屋を通さないことで、シャトレーゼは商品価格を同業他社よりも安く抑えることができた。

齊藤が次に挑んだのは仕入れから製造までのルートを短縮し、コストを削減することであり、同時にトレーサビリティーの実現だった。まず、仕入れにおいても問屋を通すのをやめた。生産者を訪ね、直接、交渉して仕入れ値段を決め、生産現場で収穫した原材料をそのまま工場に運んだのである。

齊藤はそれを「ファーム・ファクトリー構想」と名付けた。農園から工場までの時間を短縮し、中間コストをなくすことだ。ファーム・ファクトリー構想はヒット商品を生む骨格となっている。

1994年、シャトレーゼは山梨県北杜市白州町にファーム・ファクトリー構想のシンボルともいえる白州工場を建てた。白州は名水の里であり、洋酒メーカー、サントリーの蒸留所も立地している。

水は原材料として記載されているわけではないが、菓子や食品の味を左右する重要なものだ。齊藤は良質の水を使い、原材料は近在の生産者から直接仕入れることにした。