自分と向き合う時間がほしい
大空 幸星
自分でも自分自身がよくわからないけれど、孤独で苦しい。だから自分と向き合う時間が欲しい。でも心配はかけたくない。そんな気持ちをすべて正直に書きました。F先生であれば、もしかすると信頼できるかもしれないという思いがうっすらとあったのかもしれません。でも一番にあったのは、迷惑をかけてはいけない、とりあえず、いまの状況だけは報告しておかなければという気持ちでした。
書き終わったときには、深夜3時を過ぎていました。バイトで疲れ果てていた僕は、そのまま気絶するように眠りに落ちました。
初めて出会った「信頼できる大人」
次の日、電話の音で目が覚めました。寝ぼけながら出てみると、F先生からでした。
「お前、いまどこにいるんだ?」と聞かれ、ぼんやりした頭で「家で寝ています」と答えると「マンションの下まで降りてこられるか」と先生は言いました。「はい」と答えて携帯電話を見てみると、先生から何十件もの着信が入っていました。
言われた通り、マンションの入り口まで降りると、そこにF先生が立っていました。
本来であれば、授業が行われている時間です。先生は自分の授業を調整して駆けつけてくれていたのです。
僕の姿を見て、こわばっていたF先生の顔は心の底からホッとした表情に変わりました。その様子を見たとき、僕は生まれて初めて「この人は信頼できるかもしれない」と思いました。
それまでの僕は、信頼できると思える大人に出会ったことはありませんでした。表面的な慰めや無責任な助言を受けた経験はあっても、心を開いて自分の悩みや苦しみを相談できると思える大人は一人もいなかったのです。
だから最初は、本当にF先生に頼っていいのかどうか戸惑いましたが、先生は、そんな僕に根気よくつきあってくださいました。教師としてではなく、一人の人間として向き合ってくださる先生に、僕は少しずつ自分の気持ちを吐き出し、胸のなかにある苦しさを打ち明けていきました。