残業代が9万円前後になるように調整したが…

課長に尋ねると、どうやらどこかの支店の若手行員が「サービス残業」の実態について労働基準監督署に告発したらしい。

労基署がM銀行のサービス残業の実態を調査したところ、各地で残業代の過少申告が明らかになり、客観的に勤務実態がわかるパソコンのログイン・ログアウト時間をもとに修正させるようにと指示があったのだという。

目黒冬弥『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)

「まともに修正したら、残業代は180万円前後になるかと思います。どうしましょうか?」と課長に尋ねると、「180万円はまずいな。10万ぐらいにしておいたほうが無難だろうなあ」。銀行への忠誠心を示すためか、残業代をもらえない副支店長の手前なのか、課長は私にそう告げた。

私は課長代理として指示を出した。

「未払いの残業代なんだけど、悪いが9万円前後になるように残業時間を調整してくれないか」

みんなとくに反発することもなく、従ってくれた。まあそんなもんだろう。もらえるだけラッキー。そう顔に書いてあった。

それから数週間後、課長に呼び出された。バツの悪そうな顔をしている。

「隣の取引先2課の課長から聞いたんだけど、みんな70万とか80万とか、残業代そのまんま正しく申請したらしい。2課の課長なんて200万だってさ」
「それじゃあ、10万円以内に抑えたのはうちの課だけなんですか?」
「そうだ。俺だってまさかみんながそんな申告するとは思わないもんよ~」

課のみんなにこのことをどう言おうかと考えた末、伝えるのをやめた。どうせどこかから知ることにはなるだろうが……。

翌月の給料日、未請求だった残業代が上乗せされて入金になった。

その翌週以降、特別ボーナスが入ったほかの課のメンバーたちは、タグ・ホイヤーの時計、ジョンロブの革靴、エルメスのバッグなどで出社してきた。取引先3課のわれわれは指をくわえてそれを眺めていた。幸いなことに私に直接文句を言ってくる課員はいなかった。

さらにその翌月、社宅の駐車場に停められている隣のクルマがアウディに変わっていた。

あとから聞いた話では、その家は残業代250万円を請求したのだという。それ以来、わが一家は駐車場に行くたび、ピカピカのアウディを見て、ため息をつくのであった。

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