仕事と適性が合っていない人も多い

——先生の診てきたケースでは、具体的にどのような状態の人が多いのでしょうか。

私のもとを訪れるクライアントでは、仕事と本人の資質が合っていない場合も少なくありません。

例えば、適応障害と診断された人がなぜ会社に行けなくなったのかを丁寧に診ていくと、本人の持っている性質と会社の求める業務が全然噛み合っていなかったりする。

一流企業に勤めていて、はたから見れば恵まれていると思われるような人でも、業務内容がまったく本人と合っていなかったりすると、成績は出ないし叱られてばかりになってしまう。本人は、自分が何者であるのか、どういう資質を持っている人間であるのかということがわからないままに、就職してしまったのでしょう。

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治療をきっかけに自分自身と向き合い直したことで、大きく人生の進路変更をしたケースも少なくありません。

例えば、営業や業務管理をやっていたけれど、自分の手を動かしてコツコツ物を作るほうが性に合っていると気が付いて、実際、職人の世界へシフトした方も何人もいらっしゃいます。

しかし一番多いのは、仕事はちっとも面白くないし、自分らしさを生かしているわけじゃないが、やれるからやっているだけ、というケースです。その分、プライベートに生きがいが見つかれば良いけれど、そうでない場合には、生きること全体が無意味なルーティンに思えてきてしまいまうでしょう。

何もせずボケっとする時間を作る

——そのような「駱駝」的な状態から、ニーチェのいう「獅子」や「小児」になるための方策はあるのでしょうか?

私がお勧めするのは、まずは「嫌い」を大事にすることです。

人間の自我が出てくる順番は、必ず「NO」の方が先なんです。ですから、嫌い、やりたくない、好きじゃないといった、マイナスと見なされがちな「NO」に目を向けてみることがとても大事なんです。みな一生懸命、やりたいことや好きなことを探そうとするけれど、「嫌い」がわかっていない人が「好き」を言えるはずがない。

2、3歳のイヤイヤ期、そしていわゆる思春期の反抗期を経て、さらに大人になってから、自分が真の主体になるために自分を縛っていた「龍」に「NO」を言う「第3の反抗期」とでも言うべき闘いが、本当は必要なんです。しかし、すでに社会の歯車の一部になってしまっているので、それはなかなか簡単なことではない。だから、不本意ながらも現状に甘んじて、鬱屈うっくつした状態で惰性で生きている人も多いような気がします。

あとは、何かをするのではなく、「しないこと」の大切さに気付くこと。何か有意義なことをして時間をすべて埋めちゃおうとせずに、あえて空白の時間を怖がらずに作ってみてほしい。何もせずボケっとしている中でしか、自分の心の声を聴くことはできないのですから。