30歳でやっと成人になれる

——「三様の変化」とは駱駝らくだ、獅子、小児の順で人間の変化・成熟のプロセスが描かれている逸話ですね。

そうです。駱駝は自ら重荷を積まれることを望み、従順さ、忍耐、努力、勤勉などを象徴している存在です。駱駝は、「汝なすべし」と書かれたウロコに覆われた龍によって支配されていて、その指示に従って勤勉に働きます。

しかし、駱駝はある日それが不当な扱いであることに気付き、獅子に変容して龍を倒し、自分の自由を獲得する。そして、「われは欲す」と雄たけびをあげる。ここに、一人称の自我が誕生するのです。また、この獅子は怒りの化身でもあります。

そして次に、獅子は小児に変身します。小児の言葉は、「しかり」。「すべてはあるがままに」という意味です。小児は純粋無垢むくで、無心に創造的な遊びに没入していく。これが、人間の究極の成熟した姿です。そうやって、人は初めて「本当の自分」というものになる。

ですから、本当の自分の人生というものは、このようなプロセスを経た「生まれ直し」からようやく始まるものだと言っても良いでしょう。

この「生まれ直し」は何歳からでも可能ではありますが、みんなが思っているほど、それは早くやってくるものではない。10代、20代でそれができる人は、むしろ稀だろうと思います。

実際、それが起こるのは30代以降がほとんどです。精神的な成長は、現代ではなかなか時間がかかってしまうので、今の人の実年齢に0.7をかけてようやく昔の人の年齢と同等になるのではないかと感じています。ですから、現代では30歳くらいでやっと成人式であると考えるのがちょうど良いくらいかもしれません。

自分がない「いい子」たちばかり

——アイドルの場合、アイドルを辞めることが自分を取り戻すひとつのルートと言えるかもしれません。一方で、一般人はどうでしょうか。

一般の人たちの悩みの多くは、社会適応のために演じている部分が肥大しすぎて、「本当の自分」を見失ってしまっていることからくるものです。

親元で「良い子」を演じて、社会に出ても会社の期待に応え、「本当の自分」が見失われ、わからなくなってしまっている。そのために生きる意味が感じられなくなってしまっている。最近は、そうでない人を探すほうが難しいくらいです。

子供時代からお受験や習い事に追い立てられ、すっかり子供らしい時間が奪われてしまっている。言われたことに従順にやってきた延長線上で、そのまま社会人になっている。

そうすると、本当は自分は何が好きなのか、何がしたいのか、あるいはしたくないのかとかいうような、自分自身の気持ちや意志がわからなくなる。