楽でもあるけど、別に幸せじゃない
——BTSのナムジュンの「アイドルというシステムは人を成熟させない」という発言は思考停止した閉塞状態を示唆していると思われます。通常の社会にも、当てはまるでしょうか。
人間は機械じゃなく生き物なんですから、同じことをただ反復することや、ただ求められたことに応じるだけでは、基本的に面白くないと感じるはずです。
通常はそれを苦痛に思い、果たしてこんなことを続けていて良いのかという疑問が出てくるものです。しかし、その問題に向き合うことを恐れる人は、感性を麻痺させ、思考停止して、問題から目を背けてしまうのです。
思考停止でいることは、とりあえず楽にはなれるかもしれませんが、かと言って幸せでもない。そして、そのような姿勢で生きることは、自身の人生くらいまではどうにか誤魔化せるかもしれないが、世の中のおかしさを間接的に肯定していることにもつながりかねない。つまり、社会問題などに対しても、思考停止して反対も賛成もせずいることは、二次的に賛成票を閉じてしまっていることと同じです。ファシズムもそういう中で出てきたものですからね。
人間の在り方としては、やはり、思考停止でいることは望ましくないものだと思います。
やはり、自分が今どういう状態で生きているのかということについて、もうちょっと鋭敏になる必要があるのではないでしょうか。
なぜキャンプブームが起きるのか
しかし、自分を偽った思考停止の状態は、そう長く続くものではありません。その意味で、今回BTSが表明した危機感は、極めて自然なものだと思います。
自然界には毎日同じことは起こらない。頻繁に変わる気候をはじめ、刻々の環境の変化に対処しないと、人は生き延びていけません。私たち現代人が毎日同じような生活ができるのは、実は人為的で不自然な環境を作ったからにほかなりません。
雨風をしのぐ建物をたて、室内でエアコンをつければ、一定の環境で生活が送れる。しかし、本当はそれが人為的な環境に過ぎないことを、私たちは自覚していなければなりません。キャンプブームや地方移住で自給自足的な生活をする人が増えてきているのも、不自然な現代生活への一つの反動なのかもしれません。
私たちが生きていて、何らかの違和感に気付いたら、そこから「悩むこと」を恐れてはなりません。私はあえて、ぜひとも悩んでいただきたいと言いたい。
悩むのがマイナスで、おかしなことと思われがちな風潮がありますが、悩むということは、本当は、人間的なことにもう一度戻っていくための大切な入口なのです。
悩まないで適応している人が健康とみなされるような現代の価値観は、とても薄っぺらなものではないかと思います。そんな意味では、繰り返しになりますが、BTSの出したメッセージは、とても健全な「NO」だと言えるです。