単なるチョンボでなければ、東京五輪をゴリ押ししようとした政府の意向を忖度して、五輪反対デモをおとしめるために「何らかの意思」が働いたことになる。それは、恒常的に政府や自民党に配慮してきたNHK全体に巣食う遺伝子が表出したものにほかならない。

日本オリンピックミュージアム前に設置されたオリンピックシンボル(写真=CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

「意図的な捏造」であるにせよ、百歩譲って「重過失による捏造」であるにせよ、NHK全体にはびこる深層心理がなせる技なのではないか。だから、「字幕事件」は、これまでの「捏造疑惑」とは、背景が決定的に異なるのだ。

ここに、NHK固有の根源的な問題が見え、NHKの悪しき体質が浮き彫りになったといえる。

受信料を払う国民を見て仕事をするべきだ

NHKは、放送法で政治的公平を規定されているにもかかわらず、政府・与党との距離の近さが常に問われてきた。

安倍晋三政権時代には、NHKの政権寄りの傾向が一段と顕著になり、たびたび民意とぶつかってきた。

安倍元首相暗殺事件の直後から明らかになった自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の癒着問題でも、消極的な報道姿勢が追及され、ネットでは「#もうNHKに金払いたくない」のハッシュタグが盛り上がった。

政府の強い影響下にある特殊法人という事情を考慮しても、NHKには報道機関として一定の節度があるはずだ。

もとより、受信料を払っている国民は、政府のプロパガンダに徹する「国営放送」もどきの報道を期待していない。「公共放送」を自認するNHKが自ら「国営放送」に墜しかねない事態を憂慮する声は少なくない。

BPOに、一番組にとどまらずNHKそのものが断罪された以上、あらためてトップである前田晃伸会長の出処進退も問われなければならないだろう。NHKは、「字幕事件」がそれほどの重大事と自覚すべきで、けじめは必要である。

9月下旬からは、「公共メディアへの進化」を掲げるNHKのネット事業を「本来業務」に位置づけ、「ネット受信料」の創設に向けた議論が本格化する。順調に進むかに見えたが、出鼻をくじかれた格好で、にわかに雲行きが怪しくなってきた。

これまでのように政府・与党を慮り続けるのか、それとも幅広い民意に寄り添おうとするのか、NHKは重大な選択を迫られている。

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