まず、取材について。

事実に反した内容を放送した最大の要因として、「取材の基本を欠いて事実確認をおろそかにした」「取材対象者に対する緊張感を欠いていた」の2点を挙げた。

とくに、担当ディレクターが「五輪反対デモに参加したかどうか」について事実関係の確認を求められたにもかかわらず、当該男性に直接確認しなかったことを重大視した。

市内のデモで拳を上げた人々
写真=iStock.com/FilippoBacci
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編集については、「裏付け取材のできていない事柄を事実として捉え、事実と異なる放送内容にした」という「すり替え」は前述したが、あたかも五輪反対デモの実体験を語っているかのような編集は「視聴者の誤解を招く恐れがあった」と断じた。

6回に及んだ試写についても、番組責任者たちの無為無策を非難した。「告発めいた問題のシーンが放送されれば、視聴者から大きな反響が予測できたはずなのに、言及したスタッフは一人もいなかった」と嘆息。そうなった理由に「デモや広い意味での社会運動に対する関心の薄さ」を挙げたが、それは取りも直さずNHK全体が民意の重要な発露である市民活動を軽視しているということを意味する。

「みなさまのNHK」は、どこにいってしまったのだろうか。

再発防止策が機能しないNHKの構造的要因

「字幕事件」が起きた後のNHKの内部調査についても、「適切な取材を怠り、誤った字幕を付したことに限定されている」と、不十分との認識を示した。「字幕事件」が結果としてデモの価値をおとしめることになったにもかかわらず、そこに言及しなかったことの不作為を問題視したのである。

そのうえで、15年11月に放送されたクローズアップ現代の「出家詐欺」の「やらせ疑惑」や、18年11月の国際放送のドキュメンタリー番組INSIDE LENSの「レンタル家族」の「やらせ疑惑」を例示。「事実でないものを事実として放送してしまう事案が、なぜ、数年ごとに生じてしまうのか」と疑問を投げかけ、再発防止策が機能していない原因としてNHK全体を覆う「構造的な要因」を挙げた。

そして、「事実を曲げずに、公正に、そして多角的に論点を明らかにする放送ジャーナリズムの原点に即した対応が求められている」と締めくくった。

毎度おなじみの反省コメント

意見書の公表を受けて、NHKは、当日夜7時のニュースで、3分半程度の時間を割いて、「字幕事件」の経緯を説明し、BPOの意見書や記者会見の模様を報道した。

そのうえで、「NHKは、今回の問題を受け、全国の放送局に番組などの内容の正確さやリスクを確認する責任者をおいてチェック体制を強化し、全国の放送現場で勉強会を実施したほか、人材育成の取り組みを徹底していく方針です」と、再発防止に向けた取り組みを進めていることを強調。「指摘を真摯しんしに受け止めます。取材や制作のあらゆる段階で真実に迫ろうとする放送の基本的な姿勢を再確認し、現在進めている再発防止策を着実に実行して、視聴者のみなさまの信頼に応えられる番組を取材・制作してまいります」とのコメントを伝えた。