景気指標に振り回される相場

大前提として考慮に入れなければならないのは、このところの米国の8%台のインフレ率は、FRBにとっては耐えられる水準ではないということです。FRBはインフレ率目標を2%に置いているからです。今のインフレ水準はとうてい容認できるものではありません。ですから、しばらくは金利を上げることは間違いありませんが、その上げ方に市場は注目し、一喜一憂しているわけです。

その前提で、FRBが政策金利(一日だけ銀行間で貸し借りする際の金利)をどこまで上げるかにドル円相場や株式相場は反応するのですが、それを決定づけるのは、米国の各種景気指標です。

もちろん、インフレ率が最も重視される指標ですが、それに影響する景気指標はたくさんあります。主なものでもGDPの7割を支える個人消費、企業業績、企業の設備投資、住宅価格や住宅投資、雇用、給与などです。

それらが強めに出れば、政策金利上げを予想してドルが買われ、一方、株式が売られるというのが今の構図です(景気指標が強いと株式が売られるというのは、結構矛盾した構図ですが、金利上昇が景気を押し下げる影響のほうを重視しているとも言えます)。

そして、それらの指標は複雑に絡み合って動きますが、その動きに応じて利上げ予想が変わるため、相場も乱高下するという状況になっています。

このところの米国の景気指標を見ていると、強弱さまざまですが、少し景気が弱含んでいるように見られるものも出てきました。

先ほども説明したように、米国では個人消費がGDPの7割程度を支えているのですが、消費者の景気への信頼度を表す「消費者信頼感指数」(1985年を100とする)は、昨年には120を超える水準まで上がっていたのが、今では100前後です。

また、企業側の立場で景気に最も敏感だと言われる製造業の購買担当者に景況感を聞く「米ISM景気指数」も、良いか悪いかの基準となる50を少し超えた程度で、以前ほどの強さはありません。

私が注目しているのは、住宅です。関連消費の多い業界ですが、住宅価格は最近でも上がり続けています。コロナの巣ごもりや、最近まで低金利だったということもあり、ここ1年間でも2割程度上がっています。ただ、ここにきて昨年までは3%程度だった住宅ローン金利が6%近くまで上がっていることもあり、年換算で180万戸ペースにまで上がっていた新設住宅着工数が140万戸台にまで下がっています。住宅価格もそろそろピークアウトというところでしょうか。

労働市場の動きからも目を離せません。FRBが景気を少し冷ましてでもインフレ退治のために、ある意味「なりふり構わず」政策金利を上げられる背景には、労働市場にかげりが見えないことも大きな要因です。失業率は3.7%まで下がり、世界中のエコノミストたちが注目している「非農業部門雇用増減数」もこのところ堅調な数字が続いています。8月は31万5000人でした。

米国では人手不足はかなり深刻で、そのせいで賃金も上昇。それがインフレに拍車をかけているという側面もあります。FRB幹部の中では、4%程度までの失業率の悪化を容認する発言もあり、当面はインフレ対応が主眼です。繰り返しますが、そのための利上げ幅の憶測に為替や株式の市場関係者は大きく反応するのです。