金融業界には顧客の素性を確認するルールがある
岸田首相は会見でもうひとつ方針を打ち出している。
「今後、社会的に問題が指摘される団体と関係を持つことがないよう、党におけるコンプライアンスチェック体制を強化する」というのだ。
もちろん、支援者や支援団体がどんな団体なのかを知ることは重要である。
金融業界にKYC(Know Your Customer)というルールがある。銀行などに顧客がどんな目的で口座を開設しているのか、本人は実在の人物なのか、どんな経済状態なのかなどを知るよう求めたもので、本人確認などに多くの手間をかけている。金融機関が犯罪資金のマネー・ロンダリング(資金洗浄)などに利用されるのを防ぐために整備されてきたルールで、米国の同時テロが起きた2001年ごろから一気に強化された。
つまり、金融機関は誰でも顧客を増やせば良いのではなく、悪意を持って近寄ってくる顧客を見極めることが求められるようになったのだ。日本でも、反社会的勢力には関係していないという誓約書に署名を求められるなど、KYCが年々強化されている。
政治家は支援者の素性や意図を知る必要がある
政治家も同様に、そうしたKYCが不可欠な時代になったということを今回の旧統一教会問題は示しているのではないか。とくに権力の一翼を担う与党政治家は支援者や近付いてくる人物の意図をきちんと知る必要がある。
いま、支援者のチェックに追われている議員が少なからずいるのは、これまでまったく「支援者」の素性を調べてこなかったことの裏返しだろう。
今後、支援者の意図を突き詰めていけば、政策変更によって利益を得たり、被害を被る可能性がある企業や団体からの献金や選挙支援を受けることは極めて危険になってくるはずだ。日本の政治家はその点が甘いのだろう。贈収賄事件が繰り返し起きるのも、そうした政治家と支援者の「甘い関係」が背景にある。最近は外国籍の在住者からの寄付の申し出などもチェックするようになったが、かつては外国人からの寄付を受けていて問題になるケースもあった。
岸田首相が方針として掲げた「今後付き合わない団体」を、「社会的に問題が指摘される団体」としているのは妥当なのかどうかも考える必要がある。社会的に問題を起こさず世の中で騒がれなければ、無条件に付き合っていて良いということにはならないはずだ。
かねてから日本はスパイ天国だと言われてきた。とくに大臣級になっても政治家の情報管理の脇が甘く、情報が漏れて問題になるケースもあった。ロシアによるウクライナ侵攻や、中国と台湾の対立など、地政学的なリスクが高まる中で、最近は経済安全保障が大きなテーマになっている。そんな中で、「支援者」として議員に近づいてくる人物や団体がどんな素性の人たちなのか。政治家はより警戒心を持つことが求めらている。