貧困、虐待、いじめ、依存症、カルトへの入信、犯罪……社会問題の共通点は背景に「孤独」があること。コミュニケーション・ストラテジストの岡本純子さんは「日本では孤独を“美徳”とする風潮が非常に根強い。孤独を礼賛・肯定する本がずらりと並ぶなど孤独推奨ビジネスが盛んだ。しかし孤独はやがて怒りや絶望に変わり、さらに社会を震撼させる事件を誘発するケースも今後増えるのではないか」と警鐘を鳴らす――。
貧困、カルト入信、犯罪……の背景にある「孤独」
「うつ病や不安、暴力や依存症など、私たちの抱える多くの課題の根源。それは『孤独』である」
これは、CDC(疾病予防管理センター)などを傘下に持つ米公衆衛生局の長官ビベック・マーシー氏の言葉だ。マーシー氏が全米の医療や福祉の現場をくまなく視察して、気づいたのは、貧困や依存症で苦しむ人の共通項は「孤独」ということだった。それ以来、頻繁に「孤独」のリスクについて発信し続けている。
貧困、虐待、いじめ、引きこもり、依存症、カルトへの入信、犯罪……。今、巷で取りざたされる多くの社会的問題の表層がA面だとすれば、B面には多くの場合、「孤独」が隠れている。
孤独な人が必ずしもこうした問題を抱えているわけではないが、問題を抱える人に共通するのは「孤独」だ。人や社会と上手につながれないことによる不安感や寂しさ、絶望感は人を心身ともに崖っぷちへと追い詰める。
「孤独」は「心の飢餓」と言われる。お腹が空いたという飢餓感は「何か食べなさい」、のどが渇いたという渇望感は「何か飲みなさい」という脳からのサインであるのと同様、「孤独感」は「人と繋がりなさい」という脳からの指令であると考えられている。だから、そのサインを無視して、「我慢」しようとすれば、そのひずみが心身の問題として現れる。
孤独は一日たばこ15本吸うこと、アルコール依存症であることの2倍の健康リスクがあり、早死にリスクが50%上がる。こうした科学的研究から、世界では「孤独は現代の伝染病」として、その危険性に警鐘が鳴らされてきた。