「悩んで、悩んで、でも続けろ。必ずどこかでわかる」

やがて、フィロソフィと並んで稲盛経営学の両輪をなす「アメーバ経営」が導入される。組織を小集団に分け、それぞれが独立採算制により運営し、社員一人ひとりの当事者意識を持たせ、全員経営を実現する手段だ。これが全社あげての経費削減活動を促進し、一人ひとりの採算意識を高めていった。

筆者は空港の現場でその経費削減ぶりを取材したことがある。キャビンアテンダントは機内に持ちこむ自分たちの荷物について「1日1人500グラム減」に取り組む。整備現場では備品ごとにスーパーの店頭のように値札を張り、コスト意識を高める。ウェス(機械の清掃用布)は社内で集めた古着を使う。地上スタッフも、故障した拡声器が2台あったら、片方から部品を取り、もう一方の部品と交換して2つを1つにして使った。

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アメーバ経営により、一人ひとりが自律的に判断し、行動する。フィロソフィが判断基準となり、行動規範となる。JALの復活は会社更生手続きにおける措置も寄与しているのはいうまでもない。ただ、全社員の自主的な経営削減に取り組みにより、再建2年目には計画より800億円近く経費を削減し、目標を大幅に超える営業利益を残すことができた。ついには世界のエアラインの中でもトップクラスの収益力を誇るまでにV字回復を果たすのだ。

あるグランドスタッフにJALフィロソフィの中でどの言葉が好きか聞いてみたことがある。

「『美しい心を持つ』。私はこの言葉が好きです。私たちの心がすさんでしまったら、お客様に最高のサービスが提供できなくなってしまうからです」

「美しい心」。それはまさに稲盛氏が強く求め続けたものだろう。

植木氏は一時期、「人間にとって何が正しいか」の判断で迷ったことがあり、稲盛氏に相談すると、こんな答えが返ってきたという。

「いいんだ、悩め。お前は今まで人間として何が正しいか判断したことはないだろう。それを今学んでいるんだ。悩んで、悩んで、でも続けろ。必ずどこかでわかってくる」