「どこにでもいるオッチャンですわ」と自ら称した理由

稲盛氏は65歳のときに在家で得度しているが、その姿はまさに禅僧を思わせた。「聖」のオーラが強かった分、取材後の「俗」の姿が印象に残ったのかもしれない。

「普通の人」の顔を2度目に見たのは、2015年夏、同じ1932年生まれで、長年私的にも交友のあった鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO(当時、現・名誉顧問)との初めてのカリスマ対談の進行役を務めたときだ。

実は2人には共通点が多い。子供時代は人前で話すのが苦手。どちらも中学入試(旧制)に失敗。就職も思うに任せず、鈴木氏は父親のツテ、稲盛氏は大学教授の紹介で就職先を見つける。鈴木氏はセブン‐イレブンを、稲盛氏は京セラを起業。事業を軌道に乗せていくなかで、それぞれ「単品管理」「アメーバ経営」と独自の経営モデルを生み出した。

2022年1月8日、上海のセブン‐イレブン
写真=iStock.com/Robert Way
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超ビッグ対談は挨拶がわりの健康法談義から。「土曜日は天気がよかったら、ゴルフに行く。普段運動をしないので歩くのが目的」と、ゴルフ健康法を披露する鈴木氏に対し、「私はずぼらなもんで、暇なときはちゃぶ台の前にどてっと座ったきり。あとは散歩がてら買い物に出かけたり」と、照れながら話す稲盛氏、と好対照だ。

対談は2時間半に及び、最後に雑談モードになったとき、相手が親しい鈴木氏だけにリラックスしたのか、こんなエピソードを披露した。そのときの録音をそのまま紹介しよう。

【稲盛】私、セブン‐イレブンというのは大変好きでして、おにぎりも買ってます。この前はうちの下に降りていきますと、駅の近所にセブン‐イレブンがあるんですが、お昼散歩がてらそこへ寄ったら、ちょうどスパゲティのミートソースのナポリタンが冷蔵庫みたいなのにあって、それを買って帰って、家内に、おい、セブン‐イレブンでこんなの買ってきたぞって言ったら、見て、これは電子レンジ専用と書いてありますよと。で、うちは電子レンジは昨日から故障してるんですって(笑)。近所の娘に電話して、お父さんこんなの買ってきたんで、あんたの電子レンジ貸してくれって(笑)。

自ら「どこにでもいるオッチャンですわ」と称していたが、そのオッチャンぶりに、現場にいたスタッフ全員が大爆笑した。