海辺にいたら、つい選んでしまう「おにぎりの中身」

どんな風に仮説を立てるのか。わたしがたびたび例としてあげるのが、「海辺のコンビニと梅おにぎり」の例です。

海辺の町で、釣り船の発着場に近い道路沿いにセブン‐イレブンの店舗があったとします。いまは釣りシーズン真っ盛りです。明日は週末で、天気予報では晴天で絶好の釣り日和のようです。早朝から釣り客が昼食を買いに立ち寄ると予想されます。

昼には、かなり気温が上がりそうです。釣り客の心理からすると、時間が経っても傷みにくいイメージのある食べ物を求めるはずです。「それなら梅のおにぎりが売れるのではないか」。そう仮説を立てて、普段より多めに仕入れておきます。

釣り客も、昼食を買うつもりで店に寄りますが、何を買うかまではあまり決めていません。陳列棚に大量に並んでいる梅おにぎりと、釣りのお弁当に梅おにぎりをすすめるPOP広告を見て、自分でもあまり意識しなかった潜在的ニーズに気づき、次々と買っていく。

そして、昼になり、梅おにぎりというモノ(商品)の味に満足するとともに、気温が高い炎天下でも安心しておにぎりを食べられるというコト(体験)に価値を感じ、満足する。

そして、「あのコンビニは釣り客のことがわかっている店だ」と評価し、これからも繰り返し利用しようと思う。ここに顧客ロイヤルティ(続けて利用しようと思う度合い)が生まれます。

この海辺のコンビニでは、お客様に満足していただけるだけの顧客体験を提供したことで、収益に結びつく。

このように、セブン‐イレブンの商品発注の場合、お客様の心理を読んで、行動を予測し、どんな体験(コト)を望むかを予想して、明日の売れ筋商品の仮説を立て、商品(モノ)を発注し、結果を検証するという「仮説・検証」を日々、実行しているのです。

「真冬の冷やし中華」がおいしい理由

お客様が体験(コト)により得られる価値に目を向けるとき、重要なのはお客様の心理です。「海辺の店の梅おにぎり」の例を見ても、お客様は梅おにぎりの味に満足するとともに、安心という心理的な価値を得られることに満足しています。

仮説を立てるときには、お客様の心理を読まなければなりません。わたしは、「現代の消費社会は経済学ではなく、心理学で考えなければならない」と一貫して唱え、お客様の心理を重視する心理学経営に徹してきました。

たとえば、セブン‐イレブンでは、真冬でも気温が上がり、少し汗ばむような日には冷やし中華を販売することがあります。冷やし中華のモノとしての物質的・物理的な価値は「麺の冷たさ」「冷たいスープのさわやかな味」などにあります。そこだけ見れば、「夏の食べ物」ということになるでしょう。

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しかし、真冬でも少し汗ばむような陽気の日には冷たい麺がおいしく感じる。お客様は「冬に冷やし中華を食べる」という体験(コト)に心理的な価値を感じ取り、満足する。

この「真冬の冷やし中華」も、前日に翌日の気象情報から、お客様の心理を読み、お客様の行動を予測し、どんな体験を求めるか予想して、仮説を立てることで着想されるわけです。