コーヒーショップで知り合った女性は、オンラインで小さな編み物用品の店を開いていたが、顧客に発送した荷物が追跡できなくなり、破産に追い込まれてしまったという。

みな、現金やガソリンがなくなった時の話をした。だが、ほとんどの人が覚えていたのは、ゴンチャロフが語ったように、何もかもが停止した時のあまりのスピードだった。

攻撃を受けた日が、ウクライナの憲法記念日だったというタイミングを考えれば、点と点をつなぐのに時間はかからなかった。

あのろくでもない悪党、母なるロシアが、またしても嫌がらせに出たのである。

だが、ウクライナ人はすぐにへこたれるような人たちではない。旧ソ連から独立して二七年間の悲劇と危機を、ダークユーモアで乗り越えてきたのだ。何もかもがダウンしたことを、こんなジョークで笑い飛ばす者もいた。

ヴォーヴァ(ウラジーミルの愛称。プーチンのニックネーム)は、ウクライナの憲法記念日の休暇を数日、余分にくれたんだ。あるいはこんなふうに言う者もいた。あの攻撃のおかげで、ウクライナ人は数年ぶりにフェイスブックから解放されたよ。

「今回も二年前の送電網攻撃も、単なるリハーサルだよ」

この時の攻撃で、あれほどの精神的ショックと経済的な打撃を受けたにもかかわらず、ウクライナの人たちはもっと最悪の事態を覚悟していたらしい。

企業の営業部門や顧客サポート部門のシステムは大きな被害を受けた。重要なデータは二度と復元できない。それでも致命的な惨事は免れた。旅客機や軍用機を墜落させるか、恐ろしい爆発を起こすこともできたのだ。チョルノービリの放射線レベルの監視システムだけではない。ウクライナには、フル稼働している原子力発電所がほかにもあるのだ。

ロシア政府も最後には手心を加えた。二年前に送電網にサイバー攻撃を仕掛けた時にも、ロシアのメッセージをウクライナに思い知らせるという目的を遂げたあとは、すぐに停電を終わらせたように、ノットペーチャの被害もかなり穏便な程度にとどめた。

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もっとやり放題にウクライナに被害を与えることもできたのだ。ロシアはウクライナのネットワークにいくらでも侵入でき、自由に使えるアメリカのサイバー兵器も手に入れていたのだから。

そのNSAのサイバー兵器を使って、ロシアはNSAを嘲笑ったのではないかと考える者もいた。だが、私がインタビューしたウクライナのセキュリティ専門家が教えてくれたのは、それ以上に不安をき立てる仮説だった──今回のノットペーチャも二年前の送電網攻撃も、単なるリハーサルだよ。

それが、サイバーセキュリティ起業家オレフ・デレヴィアンコの意見だった。このブロンドのウクライナ人はある夜、ヴァレニキと呼ばれるウクライナの水餃子と、茹でた肉と野菜をゼリーで固めたアスピックを食べながら、私にそう話してくれた。

「ウクライナはロシアの実験場にすぎない」

デレヴィアンコの会社は、サイバー攻撃の最前線にあった。彼の会社がフォレンジック調査を繰り返すたびに、ロシアが単に実験を重ねているだけだとわかった。