「もう国保の制度が破綻しているんです」
厚生労働省はコロナの感染拡大による受診控えが影響し、国民健康保険の2020年度の財政状況が2054億円の黒字だと発表した。全体の医療費は大きく減ったはずである。それなら保険料の減額につながらないのだろうか? これも申し訳なさそうに区の職員が首を横にふる。
「国保は保険料だけでは運営できませんから一般会計からも補塡しています。これはいってみれば、企業にお勤めの被用者保険に入っている方の住民税をもらっているようなものです。公平性を考えたら国保は国保の中だけで解決しなければなりません。ですから医療費が減ったからといってすぐ保険料を下げるというわけにはいかず……」
そして区の職員は小さな声で「もう国保の制度が破綻しているんです」とつぶやいた。
私は労働意欲が失せていくのを感じた。働いても働いても、その分を保険料にとられていくのだ。
保険料負担でまかなう制度設計にはなっていない
長友氏は「自治体の努力ではもう限界なんです」と指摘する。
「組合健保や協会けんぽにとっても国保に対する納付金や、後期高齢者への支援金が非常に重たい。医療保険同士の奪い合いに終始するのではなく、医療保険全体に対する国庫支出を増やすことです」
国庫負担率は年々低下している。寺内氏も、これに同調する。
「つまり国保はもともと保険料負担でまかなう制度設計にはなっていないのです。83年までは収入全体の約6割を国庫支出金が占めていましたが、84年から低下し、現在は二十数パーセントに過ぎません。減らされた国庫負担分を被保険者の保険料に肩代わりさせていることが保険料高騰の大きな要因です」
旧国民健康保険は1938年に制定、施行された。
設立時の国保法(旧法)の第一条には<国民健康保険は“相扶共済の精神に則り”疾病、負傷、分娩または死亡に関し、保険給付を為すを目的にする>と記される。つまり旧法では相互扶助・共助の制度だったわけで、国庫負担も自治体負担もなく、保険者(健康保険事業の運営主体)は産業組合・農業会(農協の前身)などだった。