国保は「助け合い」で運営しているわけではない

ここで公的医療保険を整理しよう。大きく6つに分けることができる。

1)大企業に勤める労働者とその家族が加入する組合健康保険(組合健保)
2)中小企業で働いている人とその家族が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)
3)公務員、学校職員とその家族が加入する共済組合
4)医師や建設など特定の職業団体が運営する国保組合
5)後期高齢者医療制度
6)国保(市町村が運営)

国保には、1)~5)に該当しない人がすべて加入することになっており、国保があるからこそ皆保険制度が成り立つといえる。そのため国保料が高い、私は病院にかかっていないなどと文句を言うと、先の男性のように、自治体窓口では「相互扶助、助け合い」と言われてしまう。つまり、みんなで医療にかかれる体制をつくりましょう、ということだ。一見正しく感じるかもしれないが、実はこのような理論はおかしい。

佛教大学社会福祉学部准教授で、『市町村から国保は消えない』『新しい国保のしくみと財政』(ともに自治体研究社)などの著書がある長友薫輝氏が説明してくれた。

「よく誤解されるのですが、国保は“助け合い”で運営しているわけではありません。例えばテレビコマーシャルでおなじみの民間保険は、サービスを受けたいのであれば保険料を納めなさいという保険原理ですよね。しかし国保を含む公的医療保険、年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険の5つは社会保険といわれ、個人への保険料だけでなく、事業主にも負担を求め、国が公費を投入し、運営に責任を持つ、国民に加入を義務づけるという面も持ち合わせます。これは自己責任や家族・地域の助け合いだけでは対応できない貧困、病気、失業などのさまざまな問題に対して、社会的施策で対応していきましょうということなのです。ですから加入者に“助け合い”ばかりを強調して過酷な負担を強いるのは、社会保険として考えた時に問題なのです」

定年になって無職になると、国保に加入する

そもそも、なぜ国保料はこれほど高くなってしまうのだろうか。

長年、国保問題に取り組んできた大阪社会保障推進協議会事務局長の寺内順子氏は、大きな要因として「被保険者層の年齢層が高いこと」を挙げる。

「基本的に定年になって無職になると、国保に加入するのです。75歳以上は後期高齢者医療制度に加入しますが、65~74歳で国保に加入する人が多く、この層は病気を抱えやすい。特にがんは60代が中心です。ですから医療費がかかります。加入者ひとり当たりの年間医療費を保険ごとに比べると、組合健保15万8000円、協会けんぽ17万8000円、共済組合16万円に対し、国保は36万2000円です。地域に医療費が多く発生すれば、それだけ保険給付費(自己負担額以外の費用)も上昇し、それに応じて保険料が高くなるのです」

ちなみに後期高齢者医療制度は、年間医療費が94万5000円とずば抜けて高額だが、これを運営する資金は、加入者本人の保険料1割、公費約5割、他の公的医療保険から支援金約4割で構成されている。