早合点が悲劇のもと

先ほどの「上司がせっかちで、部下の話が終わるのを待てない」ということに連動していますが、部下の話を聞いている上司が、早合点してしまうというのも悲劇のもとです。

医者にたとえるなら、往診にきた患者さんの話を聞き始めてすぐに「風邪ですね」と診断してしまうようなものです。

患者さんにしてみたら、まだ話の途中で、「えっ? いや、まだこんな自覚症状もあるんだけど……」と思います。でもまあ、医者がそう言うのだから風邪なのかなと思って、続きを話さないままにしてしまう。

それが実は別の大きな病気の前兆で、手当てが遅れたために悪化してしまったら悲劇ですよね。

私がよく知る会社員の方の体験です。

その方、海外の支店に異動したくて、ことあるごとに上司に「海外の支店に異動したい」という話をしていました。そんなある日、海外の輸入品で不良品が出たことを上司に相談しようと思って、「あの部長、海外の……」と切り出したら、聞いた瞬間、部長はその方の言葉をさえぎって「ああ、もうわかってるって! 今、いろいろと調整してるから!」と言って話を聞いてくれなかったのだとか。

その方にしたら「いや、輸入品の相談なんですけど……」です。結局、その件は部長に相談せずに進めてしまったそうです。

この例でわかるのは、毎回毎回、「海外に異動したい」という話をしてくる部下でも、翌日には「海外からの輸入品について」の話をしてくるかもしれないということです。

前フリが同じでも、同じ話かどうかは、聞いてみないとわかりません。

「部下が何を考えているかなんて、だいたいわかるから」と言う方の多くは、この「いつもと同じ話だろ」「あっ、その件はもうわかっているから」という早合点をしてしまっているのです。

「わかってるから、皆まで言うな」と早合点して勝手に進めて、あとから実は違ったなどという悲劇も起こります。

仕事ができる人ほど、部下の話を先取りして、話を全部、奪ってしまいがち。

「わかった気になる」がキーワードです。

「本当に自分は正しいだろうか?」と常に考える

もうひとつ、「わかった気になっていた」ことによって起こった悲劇の実例です。

あるIT企業の副社長が、「経験が豊富でCOO(最高執行責任者)のキャリアもあるという触れ込み」の候補者を事業推進の責任者として採用しました。

それで、その人に新事業の準備を任せていたのですが、社内から「あの人はなんなんですか? ぜんぜんダメですよ」みたいな声があがってくるようになった。

その副社長としては、「いや、彼は経験豊かなデキる人だから大丈夫。多少、荒っぽいところがあるかもしれないけれど、やることに間違いはないはず。そのうち現場の人間にも理解されるだろう」と思い込んでいて、社内の声に耳を貸さなかったのです。

ところが、悪評は収まるどころかひどくなるばかり。とうとうコーチの私に実態をヒアリングしてほしいという依頼がきました。

私が現場の人たちから実際に話を聞くと、その人、本当にあらゆることがちゃんとできていなくて、現場はもう手遅れのような状態になっていました。

最終的にその事実は副社長に報告しましたが、これなども、わかったつもりで任せていて、自分の思い込みで現場からの声を一蹴していたことによる悲劇だと思います。「正しいのは自分」だと思い込まないこと。「本当に自分は正しいだろうか?」と考え、「自分の正しい」を相手に押しつけないことが大切です。この「わかった気になる」は、プロのコーチでさえ、たまに陥ることがあるくらいですから、よほど気をつけた方がよいと思います。

部下の話を聞き始めて、「また、この話か」と思ったときは要注意です。