世界的な原油高に打つ手はあるのか


1000年に一度の地震と津波により、死傷者は2万人を超えた。(写真=AP/AFLO)

原子力が退潮してくれば、化石燃料への依存が高まる可能性は高い。だが、こちらのほうはあまり心配していない。

実は石油の供給量というのは、すべて価格の関数で決まってくる。たとえばブラジルの超深海油田は、バレル当たり100ドル近い生産コストがかかるが、1バレル140ドルになれば十分にペイする。1バレル100ドルを超えてくれば、ほぼ無尽蔵とも言われているオイルシェールやタールサンドなどの資源開発も進むのだ。

なぜ今まで値段の高い石油資源や類似資源の開発が進まなかったかといえば、石油の値段が下るからだ。苦労して投資、開発した直後に石油価格が下がり、投資・開発会社がひっくり返る――それがこの40年の歴史だった。

値段さえ(高値で)安定すれば石油資源も代替エネルギーもいくらでも出てくる。埋蔵しているとわかっている石油資源だけで今後100年は持つから、我々世代と次の世代くらいまでは心配ない。値段のかかる石炭のクリーン燃焼もペイするようになれば、200年は化石燃料で持つことになる。

私は、石油価格はむしろ高いほうがいいという考え方だ。1バレル100ドルなら100ドルと世界中で決めてしまって、生産コストが下がったら差額はプールして代替資源の開発に回すような仕掛けをつくればいい。日本は1バレル160ドル程度までなら十分耐えられるし、それに対応する形で、自動車メーカーはひたすら小型化低燃費の車を追求していくことになるだろう。むしろ高い値段で安定してくれたほうが、事業チャンスが広がるという発想を持つべきだ。

現状、中東情勢の悪化で石油価格は上昇しているが、これも心配ない。たとえばイランでは、パーレビ国王が去った後も石油を売り続けた。いかなる体制に生まれ変わっても石油しか売り物がないのだから、誰かが売る。中東で政変が起きると石油価格が跳ね上がるのは投機の世界の話で、おのずと自制が働いて価格は落ち着いていくのだ。

食料も同じ。値段さえ決まったら世界中で農作地になる場所は掃いて捨てるほどある。むしろ値段が高くなれば投資を呼び込んで生産性は上がる。これが経済の原則なのである。

安定して高い食料、安定して高いエネルギーというのは日本にとって悪い話ではない。怖いのは乱高下。日本の電力代は世界一高いが、ここから先もそれを甘受して、5年、10年と年限を切って電力安定化のための投資を電気代に乗っけるのは悪いことではない。

これと同時に発電事業への参入を自由化する。異業種からの参入もあるから、9電力は競わなければならなくなる。世界一高い市場なので世界の資源国から日本の発電事業に参加したいという声が上がるだろう。発電や送電事業に対する参入規制を解けば、外資がどっと日本にやってきて、電力供給はむしろ安定するだろう。発電コストも大幅に下がって、電気代は半分になるかもしれない。災い転じて福となす。日本のエネルギー政策を根本的に見直せるのは今しかないのだ。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 陸上自衛隊/PANA、The Asahi Shimbun/Getty Images、AP/AFLO、ロイター/AFLO=写真)