テスラ株の下落が買収撤回の原因なのか

イーロンはツイッターの買収資金約440億ドルの内、約210億ドルを自己資金で、それ以外は金融機関から賄う計画だった。純資産が約2600億ドルで世界一の富豪の財布から約210億ドルが出ていく計算となる。

ところが、ツイッター買収騒動に巻き込まれるかのようにテスラ株が下落し、イーロンの財布事情が苦しくなる。4月上旬に1145ドルだったテスラ株は、6月末には673ドルと40%以上のダウンになってしまった。

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イーロンは金融機関からの資金調達は投資と融資の2本立てで準備していたが、融資の担保にはテスラ株があてられていたため、テスラ株の下落は金融機関からの予定融資額にも影響を及ぼしていた。このため買収撤回の背景にはテスラ株の下落が一因という見方がある。

しかし、イーロンがその程度のことでツイッター買収を諦めるだろうか?

イーロンが「偽アカウント問題」に固執している理由

イーロンは今回の撤回理由について、偽アカウント問題を挙げている。だが、これは急に浮上した問題ではない。イーロンは以前から偽アカウントを問題視しており、ツイッター創業者でCEOだったジャック・ドーシーとの2020年の対談でも、「本物のユーザーと偽のユーザーを区別すべきだ」と強調していた。

イーロンがここまで偽アカウントにこだわる背景には“空売り問題”がある。

「空売り」とは、その会社の株価が下がると予想して行う株取引の手法だ。具体的には、株価が比較的高い段階で株を売っておき、その後、株価が安くなったときに買い戻して、差益を得る。

2010年の株式上場以来、テスラ株は空売りの格好のターゲットにされてきた。赤字で財務内容は悪いにもかかわらず、テスラは人気があり株価は上昇を続けていたからだ。テスラは実力以上に評価されていると見なす専門家も少なくなかった。つまり、いつ下落してもおかしくない銘柄で、空売りにはもってこいの銘柄というわけだった。

例えば、2018年8月時点におけるテスラ株の空売り残高は約125億ドル(約1兆3000億円)に上り、米国内の空売り残高のトップだった。マイクロソフトやフェイスブックに対する空売り残高が50億ドル弱なのに対し、これは2倍以上の金額になる。

空売りが成立するには株価の下落が必要で、そのためにはテスラの悪いニュースが欠かせない。だから偽アカウントを使って悪いうわさを発信する連中が出てきたのだ。

イーロンにとって空売り攻勢は、自分の経営力への侮蔑と批判に他ならず、しかも偽アカウントで足を引っ張られる行為は許しがたいものだった。