電気自動車メーカー「テスラ」が、独ベルリンと米テキサス州オースティンの新工場の立ち上げに苦戦している。経営コンサルタントの竹内一正さんは「テスラは新工場を建てるたびにトラブルに見舞われている。毎回、倒産の危機に陥るほどのリスクを伴うが、トラブルさえ改善できれば爆発的な成長が見込めるという目算もある」という――。
「リスクを恐れない」というイーロン・マスク特有の手法
「巨大な炉で数十億ドルの現金を燃やしているようなものだ」
これは今年3月に独ベルリンで、そして4月に米テキサス州のオースティンで稼働を開始した電気自動車企業テスラの新工場の立ち上げで苦戦しているCEOのイーロン・マスクのボヤキだ。
世界のEV販売ランキングで昨年1位となったテスラのEV「モデル3」は需要が旺盛で、生産が間に合わない状況が続いている。巨大工場を建ててEVの生産能力を一気にアップさせる手法は、リスクを恐れないイーロン・マスク特有のものだ。
振り返れば、テスラは米ネバダ州にリチウムイオン電池の巨大工場「ギガ・ネバダ」の建設を2014年から開始し、次に中国の上海で工場を着工し、わずか1年で稼働にこぎつけたのが2019年だった。
世界で初めてガソリン車を生み出した聖地であるドイツでテスラが建てたベルリン工場は、イーロンのEV戦略における欧州市場の要衝となるものだ。しかし、生産台数は予定を下回った。
さらに、米テキサス州オースティン工場は新型リチウムイオン電池4680のセル生産に挑んだが、トラブルを起こしている。
これまでテスラは汎用リチウムイオン電池18650型をロードスターに、2170型をセダンのモデルSと3万5000ドルのEV「モデル3」に使っていた。そして、性能とコストを大きく向上させるために開発したリチウム電池が4680型である。
4680型の寸法は、2170型より直径も長さもひと回り以上大きく、正極にはコバルトをやめて、コーティング剤や添加物を工夫することで価格の安いニッケルを使用。負極には、現在使用しているグラファイトよりもリチウムが多く蓄えられるシリコンを用いて、性能とコストの二兎を追ったのだったが、このセル生産が軌道に乗っていない。