なぜテスラやスペースXではなく、ツイッターに6兆円使うのか

そもそも、イーロン・マスクはなぜツイッター社を買収したかったのか? その真の目的を私たちはまだ理解できていない。

偽アカウント問題を解決し、サービスにサブスクや有料コンテンツを盛り込んで魅力的な内容にするために、約6兆円もの巨費を投じてツイッター社を買収するといわれても納得できる人はほとんどいない。

なによりイーロンには他にやらなければならないことがたくさんある。例えば、テスラの人気EVモデル3は原材料価格の高騰で値上げが続いているし、火星ロケットのスターシップはブースターが爆発事故を起こしたばかりだ。ツイッターを買収するヒマがあるなら、テスラとスペースXにもっと時間を割くべきという意見はもっともだ。

つまり、イーロンは私たちが理解できていないツイッターの可能性を見抜いていたのではないだろうか。

重要なのは裁判の行方ではなく、判決後になにをするか

それは、テスラのマスタープランを2006年に発表したときと似ている。改めてテスラのマスタープランを説明しておこう。

第1ステップ⇒スポーツカーを作る
第2ステップ⇒そのお金を使って手頃な価格の車を作る
第3ステップ⇒そのお金を使って、さらに手頃な価格の車を作る
第4ステップ⇒上記を行いながら、ゼロエミッション発電オプションも提供する

この時、テスラはEVを1台も出荷しておらず、マスタープランの意味と価値に世間は全く気づかなかった。

竹内一正『イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズを超えたのか』(PHPビジネス新書)
竹内一正『イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズを超えたのか』(PHPビジネス新書)

マスタープランに基づいてイーロンたちが実現したことは、第1ステップが約10万ドルのロードスターで、第2ステップは約7万ドルのモデルS、第3ステップは3万5000ドルのモデル3、そして第4ステップは太陽光発電パネルと蓄電システムだった。EVを作るだけでなく発電から蓄電まで手がけたテスラは「持続可能なエネルギー企業」となり、2020年に時価総額でトヨタを抜いて自動車メーカーの世界一となった。そして、この時やっとマスタープランの意味を世間は理解した。

この事実と照らし合わせてみると、今回のツイッター買収劇におけるイーロンの真の狙いを私たちにはまだ理解できていないと認めるべきだろう。そして、「イーロン・マスクはまだツイッターを諦めていない」と筆者は考える。だからこそ、注目すべきはイーロン・マスク対ツイッター社の裁判の行方ではなく、判決後にイーロン・マスクがなにをするかなのだ。

【関連記事】
「新工場の立ち上げに苦戦中」と自らツイート…イーロン・マスクが大赤字の理由をまったく隠さないワケ
なぜ日本の大企業はKDDIのような記者会見ができないのか…「社長の能力の優劣」ではない本当の理由
東京随一の"セレブ通り"を走る富裕層が「テスラやレクサス」を選ばないワケ
「クルマを捨てて、馬に乗り換える」がブームに…アメリカ全土が苦しむ「ガソリン価格の高騰」の異常さ
「ついにBMWを凌駕するか」マツダの新型SUV「CX-60」の技術、燃費、装備がすごすぎる