新型バッテリーの量産を計画していたが…
さらに、オースティン工場で取り組んでいるコストダウンを目的としたストラクチャル・バッテリーパックの量産も計画通りに進んではいない。
ストラクチャル・バッテリーパックとはなにか。そもそも、テスラ以前の電気自動車は大きな専用電池を搭載していた。
一方で、テスラはノートPCなどに使う汎用で単三乾電池ほどのサイズのリチウム電池を数千個束ねて、一つの大きな電池のように扱う独自技術を開発した。これにより、ポルシェを越える加速性能と、一回の充電で300kmから400kmの航続距離を実現し、EVの常識を覆した。
大量のリチウム電池を搭載するテスラ車では、もし一つのバッテリーセルで問題が起きても全体に波及しないよう技術的な工夫を施してある。まず、セルを集めてモジュールにし、そのモジュールを集めてバッテリーパックにする。もし一つのセルで品質問題が起きてもモジュールで食い止める設計がそれだ。
このように3段階からなるバッテリーパック式の構造から簡素化したのがストラクチャル・バッテリーパックだ。モジュールを作らず、バッテリーセルを直接にシャーシーに組み込むことで製造コストを大幅に削減するものだが、この量産にもテスラは手こずっていた。
全自動化には失敗したが、手作業で出荷数を持ち直した
とはいえ、これまでも似たようなトラブルは何度も起きていた。テスラの最初のEVスポーツカータイプのロードスターはトランスミッションなどで問題が続出し、出荷は遅れ、「テスラは倒産する」との噂まで飛び交ったが、イーロンはかろうじて乗り切った。
次に出したEVセダン「モデルS」でも量産立ち上げに苦労している。資金繰りで窮地に立ち追い詰められたイーロンは、友人でグーグルの共同創業者にして世界的な大富豪でもあるラリー・ペイジにテスラを引き受けてもらうことまで考えていた。それでも持ちこたえてモデルSの出荷を軌道に乗せた。
予約注文が40万台以上入った新型EVのモデル3では、カリフォルニア州のフリーモント工場の生産ラインを完全自動化して製造効率のアップを図ったものの、それが裏目に出ている。
従来の10倍以上の生産性を実現するために数百台の組立てロボットを生産現場に配備したまではよかったが、ロボットが部品を掴み損ねたりするなど稼働が上がらず、生産計画を大幅に下回ってしまった。
イーロンは連日、生産ラインに入って問題解決に奔走し、夜は工場に泊まり込んで頑張ったが出荷台数はなかなか増えなかった。
そこで、イーロンが取った挽回策は、工場の建屋の外にフットボール場2個分の大きさの巨大テントを建てて、生産ラインを持ち込むことだった。ただし、それは最新の自動化設備ではなく、手作業中心の生産ラインだった。2週間で生産ラインを完成させて、死に物狂いで出荷数を増やしてかろうじて危機を脱した。