2つ目の理由は、もっと危険性が高い。JRと私鉄が乗り入れる駅を想像してもらいたい。片方が不通になるとどうなるだろうか? おそらく、都市部では経験がある方も多いだろう。
運行自体はなんとかできる場合も多い。だが、2路線が乗り入れる駅では、通常発生しない「片方の路線への移動」が急激に発生する。普段はその駅で乗り降りしない人も「振替輸送」に乗るために集まってきて、結果として、その駅が混雑で大変なことになる。
ローミング対策はまだルール化されていない
携帯電話でも似たようなことが起きる。他社回線への入り口に、トラブルが起きた携帯電話事業者の利用者が殺到することになり、その場所が圧倒的に混雑する。そうすると、当然その場所で誤動作が起きる可能性が高くなる。
大量のアクセスが集中したことによるトラブルの制御は非常に難しい。今回のKDDIの障害も、想定以上のアクセスが起きたことによる障害への対策を進める中で、想定外に起きた事象だ。だから、通信事業者は「そもそも混雑させないこと」を考えてインフラを作る。緊急時とはいえ、自社網にトラブルを引き起こす可能性があるローミングでの対応は、各社ともやりたくないし、現実的ではない、と考えているわけだ。
それでも、通信の確保は重要だ。現状はルール化もなされておらず、危険性だけが指摘されている状況だ。緊急時のルールが出来上がり、各社でどう対応するのが現実的なのか、というシステムを含めた制度設計ができあがれば、携帯電話事業者としても、緊急時のローミング対策について対策を進めることにはなるだろう。
「緊急通報」だけでも他社の回線を使えないか
一方、これが「すべての通信・通話」でなければ話は別……という指摘もある。例えば、110や119などの「緊急通報」に限り、他社ローミングを実現してはどうか、という検討は、長く続けられている。欧州では実現されているし、2011年の東日本大震災を契機に日本でも……という話があったのだが、現状はまとまっていない。
10年前は、NTTドコモ、ソフトバンクとKDDIの通信方式が違ったことなどが障害となっていたが、4G/5Gが主軸である今はその問題もなく、実現の機運は高まっている。金子恭之総務相も「さまざまな選択肢を視野に入れながら、具体的な実現方策について検討してまいりたい」と答えており、10年間動かなかった検討が進む可能性はある。