首都直下地震の犠牲者想定は3割減
東京都は5月25日に首都直下地震の被害想定に関する新たな報告書を10年ぶりに公表した。都心でマグニチュード7.3(以下ではMと表記)という大型の直下型地震が発生した場合、東京23区のうち11区で震度7を観測し、23区全体の6割で震度6強の揺れが襲ってくると試算された。その結果、建物被害は約19万棟で犠牲者の総数は6148人に達する。
この試算は前回発表された9641人よりも約3割少なく下方修正した数字である。地球科学を専門とする私から見ると、東京都が発表した試算にはいくつかの問題点が残る。首都直下地震はいつ起きても不思議ではない、まさに喫緊の課題である。
最初にどうして首都直下地震が起きるのかを見ていこう。そのためには、最近の日本列島で頻発する地震のメカニズムから説明したい。
爪が伸びる速さでプレートは移動している
地下深部で起きる地震の発生は、地球科学の基本理論、すなわち「プレート・テクトニクス」で説明される。日本列島には太平洋から海のプレート(厚い岩板)が押し寄せている(図表1)。
このプレートは「太平洋プレート」と呼ばれ、東から西に水平移動している。その速度は1年当たり8センチメートルという非常にゆっくりとしたもので、人の爪が伸びる速さにほぼ等しい(鎌田浩毅著『地震はなぜ起きる?』〈岩波ジュニアスタートブックス〉を参照)。
この際、太平洋プレートは「北米プレート」と呼ばれる陸のプレートをじわじわと絶えず押している(図表1)。その結果、陸の深部にある岩盤には歪みが蓄積される。
この歪みは地下の弱いところで岩盤を割り、断層をつくる。ここで地震が発生するのだが、内陸で発生する地震は「直下型地震」と呼ばれる。首都直下地震もその一つで、首都圏の全域にこうした岩盤が割れやすい場所が広がっている。
断層が地上にまで達すると、地面に地形の断差が生じる。これが「活断層」と呼ばれるもので、首都圏には立川断層などが知られている。ちなみに、1995年に起きた阪神・淡路大震災も、野島断層という活断層が動いて犠牲者6400人以上を出した。