首都直下地震はどのような被害をもたらすのか。京都大学名誉教授の鎌田浩毅さんは「首都圏では高速道路や鉄道、水道管などのインフラが劣化しているため、東京都の想定以上の被害が出る可能性がある。関東大震災で多くの犠牲者が出た火災旋風のリスクも忘れてはいけない」という――。
帝都大震災画報 本所石原方面大旋風之真景(=図版=浦野銀次郎・作/CC-Zero/Wikimedia Commons)
帝都大震災画報 本所石原方面大旋風之真景(図版=浦野銀次郎・作/CC-Zero/Wikimedia Commons

首都直下地震の犠牲者想定は3割減

東京都は5月25日に首都直下地震の被害想定に関する新たな報告書を10年ぶりに公表した。都心でマグニチュード7.3(以下ではMと表記)という大型の直下型地震が発生した場合、東京23区のうち11区で震度7を観測し、23区全体の6割で震度6強の揺れが襲ってくると試算された。その結果、建物被害は約19万棟で犠牲者の総数は6148人に達する。

この試算は前回発表された9641人よりも約3割少なく下方修正した数字である。地球科学を専門とする私から見ると、東京都が発表した試算にはいくつかの問題点が残る。首都直下地震はいつ起きても不思議ではない、まさに喫緊の課題である。

最初にどうして首都直下地震が起きるのかを見ていこう。そのためには、最近の日本列島で頻発する地震のメカニズムから説明したい。

爪が伸びる速さでプレートは移動している

地下深部で起きる地震の発生は、地球科学の基本理論、すなわち「プレート・テクトニクス」で説明される。日本列島には太平洋から海のプレート(厚い岩板)が押し寄せている(図表1)。

【図表1】日本列島のプレートの動きと地震の発生
図表=筆者作成

このプレートは「太平洋プレート」と呼ばれ、東から西に水平移動している。その速度は1年当たり8センチメートルという非常にゆっくりとしたもので、人の爪が伸びる速さにほぼ等しい(鎌田浩毅著『地震はなぜ起きる?』〈岩波ジュニアスタートブックス〉を参照)。

この際、太平洋プレートは「北米プレート」と呼ばれる陸のプレートをじわじわと絶えず押している(図表1)。その結果、陸の深部にある岩盤にはひずみが蓄積される。

この歪みは地下の弱いところで岩盤を割り、断層をつくる。ここで地震が発生するのだが、内陸で発生する地震は「直下型地震」と呼ばれる。首都直下地震もその一つで、首都圏の全域にこうした岩盤が割れやすい場所が広がっている。

断層が地上にまで達すると、地面に地形の断差が生じる。これが「活断層」と呼ばれるもので、首都圏には立川断層などが知られている。ちなみに、1995年に起きた阪神・淡路大震災も、野島断層という活断層が動いて犠牲者6400人以上を出した。