東京2020オリンピック・パラリンピックの選手村として活用され、新築住宅・商業施設として完成する新しい街「HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)」のマンションが人気だ。2021年8月~11月の販売では平均倍率が8.7倍となった。なぜ売れているのか。営業部門を率いる三井不動産レジデンシャルの古谷歩さんに話を聞いた――。
古谷歩さん
撮影=今村拓馬
三井不動産レジデンシャル 都市開発三部事業室主管の古谷歩さん

誰も経験したことのないプロジェクト

――東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の選手村として活用された施設を新築住宅として販売する「HARUMI FLAG」。約1年半ぶりに再開された2021年8月~11月の販売時には平均倍率8.7倍、最も人気のあった最上階の部屋は111倍にもなりました。
古谷さんは営業畑が長かったそうですが、このプロジェクトをはじめて聞いた時、「売れる」「いける」と思いましたか。

【古谷歩さん】(以降、古谷さん)僕の仕事って、「いける/いけない」というよりかは、「いかせる」仕事なんですよね。ただ、約20年のキャリアの中で断トツで難しい案件だとは思いました。

――HARUMI FLAGの「難しさ」を具体的に教えてください。

【古谷さん】一番は、誰も経験したことのないプロジェクトだったことです。

たとえば、JRや地下鉄の駅から徒歩10分圏内で100戸程度の規模の新築マンションであれば過去にも似た事例があります。どんなお客さまに気に入っていただけるか等、ある程度見込みが立てられるわけですね。

方やHARUMI FLAGは、都心へのアクセスは新交通システムであるBRT(現:東京BRT、バス高速輸送システム)となっており、総戸数4145戸という桁外れの規模の分譲住宅が一斉に完成するという前例のないプロジェクトですから、参考にできるものがなかったんです。

古谷さん
撮影=今村拓馬
古谷さんはこれまでも規模の大きなマンションの営業を担当してきたという

「BRT」の運行にも頭を悩ませた

――古谷さんが所属されている三井不動産レジデンシャルを筆頭に、三菱地所レジデンス、野村不動産、住友不動産等、日本を代表する不動産会社が参加しています。取りまとめるだけでも一苦労かと。

【古谷さん】HARUMI FLAGの分譲住宅事業に携わる事業者は11社となっており、それぞれの会社に風習があり、住宅に対する考え方も異なります。そんな中で、いろいろ議論をしながら物事を決めていったわけですが、たとえば会議も1社3人参加するだけで30人規模になってしまう。

加えて、HARUMI FLAGの重要な交通システムである、湾岸エリアと都心部をつなぐBRTの運行がどうなるのか、という問題もありました。

――解体した築地市場の地下に開通する予定の環状2号線本線トンネルを通って、ノンストップで都心まで行ける新たな交通システムがBRTですね。

【古谷さん】コロナや五輪の前に、築地市場の移転問題もありました。築地市場が豊洲に移らなかった場合は当然トンネル工事もできず、BRTの運行も暗礁に乗り上げます。

一時は、「街の重要な交通機関が開通しない状況で4145戸ものマンションを販売できるのか……?」と、頭を抱えた時期もありましたが、ご存知のとおり築地市場は無事、豊洲へ移転しましたので、みんなで胸をなでおろしました。