想定外の事態「東京五輪の延期」

――築地市場移転問題を経て、2020年に入ってからは新型コロナウイルスの影響で東京2020オリンピック・パラリンピックの開催が延期されるというまさかの事態が起こります。

【古谷さん】忘れもしない2020年3月、当時の安倍首相が東京2020大会を延期すると発表しました。報道を見て頭が真っ白になりました。

HARUMI FLAGは、東京2020大会の選手村として活用された後、新築住宅として完成するプロジェクトなので、大会が延期されたことで、当然、いろいろなスケジュールを変更せざるを得なくなりました。

延期が決まった段階では、940戸を売りに出した状況で、順調に売れていました。ご購入いただいたすべてのお客さまにスケジュールの変更などをお伝えしなくてはならなかったのですが、新型コロナウイルスの影響で延期となった2021年の大会が開催されるかどうか、開催直前まで分かりませんでした。そのため、確定したスケジュールをお伝えすることができず、心苦しかったです。

――そもそも選手村のときとはまったく部屋の仕様が異なるんですよね。

【古谷さん】お風呂やトイレ、フローリングなど、何から何まで作り変えるんです。ただ、大会が終わらないことには工事に入れません。当時、契約済みのお客さまの声として一番多かったのは、「早く確定情報をもらってすっきりしたい」。今後の予定が立てられないので、当然のお声だったと思います。

古谷さん
撮影=今村拓馬
2020年3月には「SUN VILLAGE」第1期と「SEA VILLAGE」第2期の販売延期が決まった

売れた理由は「五輪効果」ではない

――一年延期で、2021年夏の開催が決まってからも抗議活動が続き、直前まで「本当に開催するの?」という雰囲気でした。“東京2020大会の選手村”として使われなかったら、マンションの売れ行きは変わっていたと思いますか。

【古谷さん】僕は2018年の平昌冬季大会の選手村として活用された分譲マンションを見に行ったのですが、すごく販売が好調だったんです。関係者に「売れた理由の一つに選手村として使われたというプレミアムはあったのですか」と聞くと、「全くなかった」と言っていました。

そのときは釈然としなくて、「少しは五輪効果があったんじゃないのかな」と思っていましたが、実際自分で販売してみると、平昌の人の言葉はそのとおりだったな、と思いましたね。

――東京大会は結果的に開催されましたが、開催の有無は不動産価値にさほど影響しない、ということですよね。

【古谷さん】大会期間中に、選手たちが部屋からの眺望写真をSNSにあげていたお陰で問い合わせは増えましたけれども、最後、契約書に印鑑を捺すときの決め手はやっぱり住宅としての価値だったと思います。何千万円もする一生に何度もない大きな買い物ですので、「オリンピックがあったから買う」という感じではなかったですね。