トラブル時に他社の回線を借りることは難しい?

KDDIの大規模障害以降、「社会インフラである携帯電話回線にトラブルが起きた時、どうするのか」という議論が広がっている。その中でも根強いのが「トラブル時には、他の大手事業者が通信を肩代わりする(ローミングする)ようにしてはどうか」という話だ。

通信障害に関して説明するKDDIの高橋誠社長=2022年7月3日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
通信障害に関して説明するKDDIの高橋誠社長=2022年7月3日、東京都千代田区

実のところ、これはかなり無理がある。だが、ごく一部に関していうのならば、難しいが検討に値する部分がある。それはどういうことなのか? 携帯電話網の仕組みも併せて解説してみよう。

海外旅行時などは、現地の電話回線を一時借りる「ローミング」で通話や通信を行う。国内でも楽天モバイルは、自社が持つ通信網が使えない(電波が届かない)エリアでは、KDDIの回線を借りる形でサービスが行われている。

同じように、携帯電話事業者が大規模障害を起こした時にローミングで解決することはできないのだろうか? シンプルなアイデアだが、冒頭で述べたように、これは現状、あまり現実的ではない。

一度に大量のユーザーがなだれ込むとどうなるか

理由は2つある。1つ目は、いかに大手事業者といえども「他の大手の顧客をカバーできるほどの余裕は持っていない」ということ。携帯電話事業者は、自社の契約者数よりも相当に余裕を持った設備を維持している。ただ、大手携帯電話事業者の場合、「他社からの利用者が入ってきて、快適な状態を維持できる」ほどとは言いがたい。

NTTドコモは約8300万回線、KDDIが約6100万回線、ソフトバンクが約4800万回線の顧客を抱えている。このうち1つが大規模障害を起こしたとして、それが他社に入っていくと、自社顧客の1.2倍から1.5倍の利用者になる。そのような急増は、携帯電話事業者側も想定しておらず、回線の混雑(輻輳ふくそう)が発生する可能性が高い。そうすると、他社も連鎖的にトラブルを起こして「共倒れ」になる危険性が否定できない。