睡眠時間を確保するために引っ越した

鉄道会社は時間に厳しく、遅刻や寝坊をしてしまうとその後の出世に影響が大きい。

私自身、寝坊や遅刻だけはしないように工夫して過ごしてきた。職場で寝るときは周囲の騒音がうるさくてなかなか寝付けないので、耳栓をして寝ていた。

職場で耳栓をする派の人は全然おらず、「耳栓なんてしてたらアラームに気付かないだろう」とよく言われたが、意外とアラームの振動ですぐに起きることができた。

また、万が一携帯のアラームに気づかなかったとしても、定刻起床装置という強制的に起こしてくれる装置がある。二度寝をしないようにあえてギリギリの時間に起きるようにもしていた。

また、実家から通っていたのを、通勤時間が長かったため職場の近くに引っ越した。これにより家での睡眠時間を長く取ることができる。

仕事の前日には夜更かしはせず、0時には寝るようにした。8時に起きれば間に合うので8時間睡眠できる。

そして朝も、一応7時台に携帯のアラームはセットしておくが、目覚まし時計は8時にセット、二度寝できないギリギリの時間に設定するという手法を自宅でも行った。また、ベッドからかなり離れたところに目覚まし時計を配置した。これも駅の寝室で行われているのと同じ対策である。

写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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始業2分前に起床、遅刻が確定した日

しかし、ここまでしても危ない場面は何度かあった。

仕事の前日に夜遅くに帰ってきて、疲れからかそのまま寝てしまい、朝7時過ぎにふと目を覚ましたらアラームをセットしていなかった。その当時は「危なかった、セーフ」としか思っていなかった。

2018年6月。サッカーワールドカップがあった。私は日本代表の試合を夜遅くまでテレビで観戦していた。決勝トーナメントに進出した日本代表の熱い戦いを見終わった末に、何かを忘れたまま、部屋の電気もつけたまま、私は眠りについてしまった。

ふと目を覚ます。太陽の光がカーテンの隙間から差し込んでくる。今日はよく寝たな。ふと手元の携帯で時刻を確認する。8時58分。始業は9時である。職場までは15分くらいで行けるが、もう瞬間移動しないと無理である。

1分で着替えて駅までダッシュする。走りながら職場に電話をかける。

「すみません寝坊してしまって……。今向かってます」

これから私はどうなってしまうのだろうか。駅で2年以上働くと車掌になるための試験を受けられる。寝坊した日の翌日が車掌試験の合格発表であった。

ここ数年は車掌が不足しているため、出来が悪くてもほぼ全員が受かるという、かなり合格率が高い試験であった。しかし寝坊したとなると話は変わってくる。