ロック音楽は楽観的なメッセージをストレートに歌うもの

「ピースとハイライト」のいわゆる「大サビ」で歌われるのが、「♪色んな事情があるけどさ 知ろうよ 互いのイイところ‼」というフレーズである。多分に「お花畑」であり、しかし、だからこそ、この曲、及び、この曲に込められた桑田佳祐のメッセージを象徴するフレーズとなる。

このあたり、桑田佳祐の本音なのだろうと思う──「国際問題、とりわけ日韓関係に関して、『色んな事情』に拘泥せず『互いのイイところ』を認め合おうよ。そんな楽観的なメッセージをストレートに歌うことこそ、ロック音楽なんだよ」。

サザンが韓国について歌った曲として、まず思い浮かぶのが、シングル「あなただけを ~Summer Heartbreak~」のカップリング=「LOVE KOREA」だ。

「♪チョゴリの袖 見事なライン アボジは草野球のナイン」と、日韓関係の緊張とはまったく関係のない、他愛のない歌である。なお、フジテレビ『桑田佳祐の音楽寅さん~MUSIC TIGER~』の09年6月8日放送の第8回「寅さんの大阪案内」で、この曲と朝鮮民謡《アリラン》を、大阪・鶴橋の焼肉屋から楽しそうに歌っている。

加えて、あまり認識されていないと思うが、こらちも韓国に関係する歌として、アルバム『KAMAKURA』収録の「悲しみはメリーゴーランド」がある。創氏改名を匂わせる文字列が歌われる──「♪名前さえ 白い砂にうずめた日々 歴史が曲げた心には 隣の人が泣いてる」。

あっけらかんとした「LOVE KOREA」、シリアスな「悲しみはメリーゴーランド」、そしてそれらを総合した「♪色んな事情があるけどさ 知ろうよ 互いのイイところ‼」という楽観的に開き直ったメッセージ──これらすべてが桑田佳祐のメッセージだ。

ロック音楽は何を歌ってもいい

その背景にあるのは「ロック音楽は、何を歌ってもいいんだ」という強烈な確信である。

社会問題を歌うのにオドオドして、あっけらかんと歌うことにも、シリアスに歌うことにも臆する多くの音楽家に対して、あっけらかんと、かつシリアスに歌う桑田佳祐。

また、社会問題に対してネガティブに噛み付く、数少ない音楽家に対して、「お花畑」と思われながらも、ポジティブで楽天的なメッセージを歌う桑田佳祐。

さらには、ラブソング、エロソング、コミックソング、ナンセンスソング、そしてメッセージソング……広大な面積の歌詞世界を自由気ままに飛び回る桑田佳祐。

「ロック音楽は、何を歌ってもいいんだ」。

スージー鈴木『桑田佳祐論』(新潮新書)

桑田佳祐の言葉は、戦後民主主義を謳歌おうかし、堪能している。後継が続いていないことを知りつつ、いや、だからこそ臆せず、日本音楽シーン随一の広大な歌詞世界を、さらに広げようとしている。

日本国憲法第21条はこう謳う──「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」

日本国憲法が公布された1946年(昭和21年)からちょうど10年経ち、「経済白書」に「もはや戦後ではない」と記された56年に生まれた桑田佳祐は、表現の自由をこう解釈して、脳と心と肉体にインストールしたのだろう。

──ラブソング、エロソング、コミックソング、ナンセンスソング、そしてメッセージソングその他一切の表現の自由は、これを保障する。

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