深夜2時に当直を呼び起こして「薬を出してほしい」

日本は、「誰でも、どこでも」自由に医療を受けられることと、自己負担額3割以下で医療機関にかかれる気安さとが相まって、医療のモラルハザード(人々の意思決定や行動に歪みが生じること)を生んでいる、と私は考えています。

休日や平日の夜間などに救急外来を受診する人がとても多いのも、その表れでしょう。救急外来とは、読んで字のごとく緊急性のある患者さんを救うための窓口です。ところが、緊急性のない症状であっても、「平日の昼間は仕事で来られないから」「日中、病院に行くと長く待たされるから」といった自分の都合を理由に、救急外来を訪れる。24時間オープンしているコンビニエンスストアに行くような感覚で受診することから、いつしか「コンビニ受診」と呼ぶようになりました。

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「誰でも、どこでも」だけでなく、「いつでも」自由に医療サービスを受けられるのが当然のように思っている人が多いことをよく示している現象です。例えば、深夜2時ごろに救急外来の当直医師を呼び起こして、「アレルギー性鼻炎の薬を出してほしい」というような患者さんが実際にけっこういるのです。ハードな勤務の合間のわずかな休息時間をこんな理由で破られた医師にとって、その徒労感たるやありません。

医師の応召義務を逆手にとるクレーマーも

しかし、医師は患者の求めを拒めない立場にあります。医師には「応召義務(2019年の厚労省通知では応招義務)」というものがあるからです。

医師法第19条に「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではいけない」とあり、この一文をどう解釈するのか、医療の現場ではよく問題になります。

「つらい症状を訴えているのに、どうして診てくれないのか、医者には応召義務があるはずだろう?」トラブルメーカーになりやすいタイプの人が、この言葉を逆手にとってクレームをつけてくるようなこともままあります。

応召義務を、「医師は、いついかなる場合でも患者からの診療の求めに応じなければならない」と捉えると、たとえ緊急性のない症状であっても、時間外診療の求めには応じなければならない、ということになります。しかし、そうみなすと、医師の過重労働はよりいっそう深刻化することになります。